161 / 489

第158話.◇それでも時は進む

静がいなくなってもうすぐ2週間になる。 “自力で帰るので、探さないと約束して下さい”そう書かれていたメッセージカードを眺める。 普通に見ればそこに書かれた“ごめんなさい、さようなら”しか読めない。 「鈴、授業の準備は大丈夫なの?」 「ああ、それは大丈夫だよ」 授業中は何も考えずにいられる。 作り笑顔もきっと気付かれていないと思う。 寮の自室で授業の準備をする時も、頭の中は空っぽに出来る。 でも授業のない空き時間や、寮での自分の時間には静のことで頭がいっぱいになる。 1人でいると嫌な考えしか出てこないから、学校で1人になる時は殆ど保健室にいた。 静は無断で休み続けている訳ではなかった。 きちんと休学届けが提出されている。 提出したのは明さんとなっているが、郵送だったので本当に明さんが送ったのかは分からない。 でも理事長は大野家が怖いからか、それを簡単に受理したようだった。 「なあ兄貴」 「どうした?」 「俺、駄目だって言われても、やっぱりあの子のこと探したいよ。何にもしないで待ってるなんて気が狂いそうだ」 確かにあの時、静は俺の腕の中にいた。 恥じらうように頬を赤く染めて微笑んでいた。 今だって『好きです』と言ってくれた声もすぐに思い出せる。 「探すって、心当たりはあるの?」 「無いけど」 「学校や寮のことはどうするの?」 「そう、だよな。仕事を放ったりしたら怒られるよな」 寮の担当教諭は静の卒業と同時に他の人に代わって貰う予定になっている。 元々3年以上は担当しなくてはいけないことになっているが、今迄の担当教諭が殆ど5年間務めていたので、自分もその予定にしていた。 「静くんはそういうところに厳しいからね」 「兄貴は明さんがいなくなっても、変わらないな」 思わずそう言ってから、無神経だと気がつく。 「ごめん、見せないだけだよな。家に帰ってもいないなんて寂しいに決まってる。分かってるのに」 「全員で悲しい顔をしてても、2人が戻って来るわけじゃないからね。僕はいつ戻って来てもいいように家を守ることにしたんだ」 兄貴は指輪を見つめて微笑む。 明さんが出て行く少し前に指にはめてくれたと言っていた。 外さないと決めたらしい。 「そう言えば、風間さんがメッセージカードを持っていたってことは、静は指輪のことで店に寄ったのかな?!」 勢いよく立ち上がったから椅子が倒れて大きな音がする。 「鈴? ちょっと、何処行くの! これから授業でしょ?」 静のことが少しでも分かるかもしれないと思ったらいてもたってもいられなくなる。 「でも……!」 「諒平さんだって他の仕事かもしれないし。僕から連絡してみるよ。ジュエリーショップの方で会えそうな日を聞いておくから。だから鈴は静くんから怒られないように、ちゃんと仕事してきなさい。分かった?」 「……分かった………」 授業中はしっかりと集中したが、終わって職員室に戻るとすぐにスマホをチェックする。 兄貴からLINEが届いている。 拓海『明日は仕事で無理だけど、明後日の日曜のお昼頃なら大丈夫だって。僕も一緒に行くね。』 鈴成『了解。11時頃に家に行くよ』 どうして待ち遠しくなると、時間の進みは遅く感じるのだろう。

ともだちにシェアしよう!