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第159話.◆秀明様、帰還
今日はお父様が帰って来られる日。
ようやくお会い出来ると思うと、とても嬉しいけれど緊張してしまうわ。
私は明美。とずっと思ってきた。でも、本当は静と呼ばれる少年らしい。
ある時静から手紙をもらったの。
小さな紙には『何か辛い事が有れば指輪を握って下さい。そうすれば僕に変わりますから 静』と書いてあったわ。
調教で無理と思ったらすぐに指輪を握るようになっていた。
首から下げている指輪を右手で触る。
建物の扉が開いて3人の人が入って来た。
先頭に写真で見たお父様がいらっしゃる。
やっぱり本物の方が格好いい!
アガツマに何か耳打ちをすると、アガツマはまっすぐに私の所に来た。
「真ん中のベッドに行きなさい。秀明様が待っている」
「はい」
ドキドキしながら、真ん中のベッドの上に行き、お父様のすぐそばに座る。
「お父様、退院おめでとうございます」
「ふっ、会いたかったよ、静」
微笑んで静と呼ばれて、目の前が真っ白になる。
「私は明美です」
思わずそう言ってしまった。
そうしたら空気が冷えるのを感じた。
「吾妻、誰が女を作れと言った? 明美と名乗る女は必要ない。嫌がる静に明美と呼ぶのがいいんじゃないか」
私は必要ない???
悲しくて目の前がぼやけてくる。
私は無意識に指輪を握っていた。
「興ざめだな。リオにするか」
泣いている?
目の前に秀明さんがいて、こんなに悲しい気持ちになっているってことは、酷い言葉を言われたんだろうな。
涙を拭って、秀明さんの腕に手を置く。
「秀明さん。お久し振りです。僕が相手をするのでは駄目ですか?」
「静か?」
「はい、静でっ、んっ、んんっ……ぷはっ」
いきなりキスをされた。
嫌だと思うが、それを表に出さないように注意する。
「色々と慣れていないのがいいな。これから色々と教えてやるからな」
「はい。秀明さん」
「このベッドの上では、お父様と呼びなさい」
「はい。お父様。あの、お願いがあるのですが」
ここにいるみんなに約束した事を忘れてはいなかった。
「僕1人で満足出来るように頑張ります。もし、そうなれたらここにいる他の人達は解放してあげて欲しいんです」
「こいつらをか?」
「はい」
秀明さんはベッドの上からみんなを見下ろす。
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