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第162話.◇探す、探せない
兄貴に連れて行かれたのは、CLASSYのジュエリーショップではなく、初めて降りた駅の近くにある喫茶店だった。
準備中の札がかかっているが、兄貴はドアを開けて入って行く。
「兄貴、準備中じゃないのか?」
そう言いながら俺もそこに入る。
とたんにコーヒーと木のいい香りに包まれる。
なんだかホッとする空間だった。
「拓海、そちらは?」
「弟の鈴成です」
「静の……。連れて来て良かったの?」
兄貴が見たことも無い人と親しげに話している。
明さんが見たら嫉妬しそうなくらい近くに寄って話していた。
「ごめんなさい、遅くなったわ。ってまだ集まってない? 良かったぁ。鈴きゅん、来たのね。話を聞く覚悟は決まってる?」
「あ、諒平さん。まだ何も話してないんです」
「あら、じゃあ先に説明が必要ね」
覚悟とか説明とか、静と関係ある事なんだろうか?
「森、あなたが私よりも早く来てるなんて珍しいわね」
「雨音さんのコーヒーを早く飲みたかっただけだよ」
「あの、あなたは?」
「何? 自己紹介、まだしてなかったの?」
風間さんは呆れた顔をしてその人を見た。
「あの、俺はそこにいる地迫拓海の弟で、高校教師をしている鈴成といいます」
「俺は化学の研究をしてる有馬森です。明と諒ちんとは元同級生ね」
「化学の有馬さんてあの?」
まさかの有名人で驚く。
化学の分野では世界でも知らない人はいない程の有名人。
化学の先生に会ったことを言ったら質問責めに合いそうだと思う。
「あの、とか言われても自分ではよく分からないけどね。昔静の家庭教師をしたことがあるんだ」
「理数系は有馬さんが?」
「うん。静は飲み込みが早くて、将来凄い子になると思ったなぁ」
そう言ってから有馬さんは兄貴と風間さんを見る。
「俺が説明しても良いけど、そうすると全部話しちゃうけどいいか?」
「駄目。拓海ちゃん、私から説明しても良いかしら?」
「はい。お願いします」
風間さんに連れられて少し奥の席に向い合わせで座る。
「この話を聞いた後、静ちゃんのことを探さないって約束出来るかしら」
「その話しぶりから言うと、風間さんも有馬さんも兄貴も静の居場所を知ってるってことですか?」
「えぇ、知ってるわよ」
「なら、何でっ!」
今すぐにでも迎えに行きたい。
「どうして探すな、なんて言うと思う?」
「え?」
風間さんの顔は苦痛で歪んでいた。
本意ではない事が分かる。
「探すだけならいいけど、その場所を特定したら殺されるからなの」
「殺さ、れる?」
現実とは思えない言葉を言われ、頭の中が真っ白になる。
「鈴きゅんには生きて静ちゃんを待っててもらわないと困るから。探さないで欲しいの」
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