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第163話.◇定例会議①
探したくても探せない。
迎えに行きたくても行けない。
みんながそんな状況だと理解するのに少し時間がかかった。
「ここで会うのは、今いる3人とあと2人で合わせて5人。あとの2人は、静ちゃんの今の状況を知っているの」
「今の状況を?」
行かなければならない場所に一緒にいる、ということだろうか。
外に出られる人と出られない人がいるのか?
「遅くなりました。一樹もすぐに来ますので……あの方は?」
「僕の弟で静くんの未来の旦那様かな」
兄貴の声が震えている。
「そうですか、あの方がスズナリさんなんですね」
「鈴きゅん」
兄貴達の会話に集中していた意識が風間さんに戻る。
「あの人達の話は、多分耳を覆いたくなるくらい酷いものだと思うの。それでも聞く?」
静が酷い目に遭っているということなんだろう。
「聞きます。何があっても俺は静のことを待ちますから」
「本当に真っ直ぐな良い眼をしてるわ。辛くなったら外に出ても大丈夫だから」
「はい。あの、有馬さんは何でここに?」
研究者である有馬さんがここにいる理由がよく分からなかった。
「森? なんかサファイアって危険ドラッグのことを調べてるはずだけど」
「サファイアって一時問題になって、根絶したって聞いてましたけど?」
「それが、静くんが行ったところで使われてるらしくて」
「兄貴。ってことは、静にも使われてるってこと?」
幻覚を見せたりするものとは違って、命令された事に体の器官までが従ってしまうもの。世界中で使用禁止になったはずだったが。
兄貴が頷くのを見て、信じたくない気持ちでいっぱいになる。
「遅くなりました。皆さんもう揃ってますね。ん? そちらは?」
「僕の弟で鈴成です」
「静さんの……。一緒に話を聞くんですね?」
最後に入って来た人が少し苦しげに聞いてきた。
「はい。静に何があっても、どんなことが起こっていても、変わらずに待つと決めたので」
「眩しい方ですね。……それでは、始めましょうか」
6人でテーブルを囲み、コーヒーが置かれると最後に入って来た人が口を開く。
「私は吾妻です。隣にいるのは後藤です。他は知っていますか?」
「はい」
「本題ですが、あの御方が帰って来ました」
「ということはっ」
「えぇ、昨日、静さんを抱きました。かなり気に入られた様子で、毎日静さんのところに通うでしょうね」
いきなり話についていけなくなる。
静が抱かれた?
「静さんは1ミリも気持ちよくなることもなく、痛みだけを与えられた様子で、それでも嫌だとは言わずに耐えていました」
「静くんの記憶はどうなってます?」
有馬さんの質問に吾妻さんが答える。
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