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第165話.◇待つという覚悟
情報交換が終わると風間さんに声をかけられる。
「鈴きゅん、辛いことばかりだったのに出て行かなかったのね」
「静の今の状況を知りたかったので。あの子に何が起きようと俺があの子を待つことに変わりはありません。例え目が見えなくなって耳も聞こえなくなって声が出せなくなっても、俺の事を忘れたとしても、俺があの子を待つのをやめる理由にはなりませんから」
「鈴、ごめん。静くんのこと助けられなくて。あの子の身に何が起こってるのか分かってるのに、助けられなくて」
兄貴が目に涙をためて俺の前に立つ。
「兄貴のせいじゃないだろ? 俺にある御方よりも強い力があったらって思うけど、結局は無い物ねだりだしな。俺達は待つことしか出来ないなら、帰って来た時に前の生活にすぐ戻れるように用意しておこう、な?」
兄貴を抱き締める。
なんだか一回り小さくなった気がした。
「風間さん、指輪の件で少し聞きたいことがあって」
「それはこの後私のお店で聞くわ」
「分かりました。兄貴も一緒に行くだろ?」
兄貴は俺の腕の中でコクンと頷いた。
仕草が静とよく似ている。
やっぱり、血の繋がりはなくても、親子なんだなと思った。
CLASSYのジュエリーショップには指輪を選んだ時にお世話になった女性もいた。
「お久しぶりです。あの時はありがとうございました」
「いいえ」
「アヤメちゃん、残ってもらって悪かったわね」
「大丈夫です。ちゃんと残業代貰うから」
「もちろんよ」
俺と兄貴は裏のスタッフルームに通された。
風間さんとアヤメさんと向かい合って座る。
「指輪のことよね?」
「はい。置いて行かなかったということは持って行ったとしか考えられない。でも、行った先で奪われてないかと思って」
どんなに探しても静に渡した指輪は見つからなかった。
「私から説明します。結論から言うとあの子は指輪を持って行ったわ。ただし全く別の指輪に加工してね」
加工して……か。
「そう落ち込まないで。その加工は特別なもので、元の指輪には一切傷を付けてないから。加工してから1年半以内であれば元に戻すこともできるのよ」
「1年半以上経ったら?」
「2度と元には戻らないわ」
静が1年半以内に外に出られるかは今のところ分からない。
「あの子ね、どんな形でもいいから指輪を持って行きたいって言ってたわ。それがあれば自分は自分でいられるって。加工後のデザインはあの子の母親の結婚指輪よ。首から下げてたわ」
「そうですか。静はそんな事を言っていたんですね」
指輪が静の心の支えであって欲しいと願う。
俺は今日、静にどんな事があっても待つと決めた。
探したいし、助けたいという気持ちが無くなったわけではない。
でもそれで自分が死んでしまったら、静が全てを思い出した時に自分を責める事が容易に想像できる。
だから、じっと待つことに決めた。
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