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第169話.◆きたない

建物の扉の閉まる音がして、秀明さんがいなくなったと分かる。 でも、本当にもういない? 出て行ったフリをしてこっちを見てるということはない? 何も見えなくて、声も出されないと誰がどこにいるのかも分からない。 「シズカ?」 「……!!!………サ、サクさん?」 突然声をかけられて一瞬恐怖で体がこわばる。 声がサクさんだと分かってすぐにホッとした。 「驚かせてゴメンな。シャワー行く? それともトイレが先か?」 「気持ち悪くて」 意図しない涙が流れる。 これ以上心配かけたくないのに、涙は止まらない。 動こうとしたらお尻から出されたものが垂れてくるのを感じる。 「………うぅっ…………」 頰を触られて反射的にその手から逃れようとした。 「さわら、ない、でっ…っ……きたない、から………」 「シズカは汚くない。俺達を守ろうとしてくれてるのに、そんな事思う訳ないだろ?」 どう逃げたらいいのか分からず、結局サクさんに抱き締められてしまった。 「……うっ……吐くっ…トイレ………」 急に吐き気が込み上げてきた。 サクさんは僕を抱き上げて急いでトイレに連れて行ってくれた。 「…おぇっ……うぇっ…ゲボッ……うっ………うぇっ…ケホッ……」 サクさんが背中をさすってくれて、昨日より短時間で飲み込んだ精液が出ていく。 トイレの水が流される音がして、少ししたらサクさんに話しかけられた。 「シズカ、水を持ってきた。口ゆすごうな」 歯磨きの時に使うコップなのか、持ち手がある。 その持ち手を持とうとしたが力が上手く入らずに水は自分の体にかかってしまった。 「ごめんなさい、せっかく持ってきてくれたのに」 「いや、渡し方が悪かった。ほら今度は下の方を持って」 コップの下の方を両手で持って、少量の水を口に入れて便器に吐き出す。 何度か繰り返すと口の中はスッキリとした。 「サクさん、ありがと。シャワーは1人で大丈夫ですから」 トイレの水を流してさっきかかった水を拭いてから、ふらふらとする足に力を入れて立ち上がるとシャワー室に入る。 トイレとシャワー室の位置関係は頭に入っていた。 サクさんはここまでは付いて来ないようでホッとしてシャワーを浴びようとするが、どこをどうすればお湯が出るのかが分からない。 昨日はどうやったか思い出そうとしても、どこかを捻ったような朧げな記憶しかない。 とりあえず壁伝いにシャワーがある所まで行く。 手当たり次第に触ってみると急に冷たい水が降ってきた。 「……ひゃっ、冷たっ………」 始めは冷たいと思っていたが、段々と火照った体を冷やすには丁度いいと思い、そのまま冷水を浴びる。

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