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第171話.◆気配を感じる

いつも話しかけられると驚いてしまうのが嫌だった。 みんなはどうして驚かないんだろう。 目が見えている時には全く考えもしなかったことだ。 ベッドから降りてはみるけど、ベッドから手を離すとそこが何処かも分からなくなってしまう。 動くことも怖い。 「シズカ? 何してるんだ?」 「サクさん。目が見えないってこんなに怖いんですね」 何度もベッドを触ったり離したりする。 「目が見えなくなるなんて誰も思わないからな。そうなって初めて情報の殆どを視覚から得ているって痛感したろ? 俺もそうだった。今だって白黒だろうが、見えているのは有り難いよ」 「皆さんはどうやって他の人が何処にいるのか分かるんですか?」 急に頭を撫でられて、子供のように抱き上げられた。 「え? 何?」 突然降ろされて、サクさんはどこかに行ってしまう。 誰か近くにいる? 使える感覚は聴覚と嗅覚くらい。 女の子特有の甘い匂いはしないから、男性陣の誰かかな。 「えっと、ユウトさん?」 「当たり。よく分かったな」 「柔らかい雰囲気があったのと、なんとなく」 分かって嬉しくなる。 そうなると、近づいてくるサクさんにも気がつく。 「サクさん、あれ? 誰か一緒? ……吾妻?」 え? また秀明さんが来る? それともサファイア? 今度は何を奪われる? 声? 聴覚? 腕を触られて、咄嗟にその手を払って後ずさる。 足がもつれて尻もちをついたが、痛みなんて感じない。 今更逃げても仕方ないのに、逃げないって決めたはずなのに。 怖くて息が出来ない。 「シズカ、大丈夫だよ。秀明様は来ないよ。ゆっくり息を吐いて」 サクさんに背中をポンポンと叩かれて、詰まった息を吐く。 「静さん、驚かせてすみません。少し話をしたくて」 昔の吾妻のように優しい声色だ。 でも、今は恐怖が先に立つ。 「私も一緒にいます。吾妻の話を聞いてくれませんか?」 「晴臣さん?」 晴臣さんの気配を全く感じていなかったから、また驚いてしまう。 「分かりました。ごめんなさい、逃げようとして。そんな事は許されないのに」 「静さんには冷たく接していた自覚がありますので、怖がられても仕方がありません」 声色から悲しんでいると分かる。 本意で無くても、非情にならなければ調教なんか出来ないと、少し考えれば分かる事なのに。 手加減をしないで欲しいと自分が言ったことも思い出した。

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