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第172話.◇増える
「敦も?」
「うん。誠もか」
寮の部屋の静のベッドの上には敦が持ち帰ったうさぎのぬいぐるみ、誠が3人でと見つけたピンクのうさぎのチャームが置いてある。
今日も2人が見つけたうさぎのグッズが置かれる。
静がいなくなってもうすぐ2ヶ月になる。
夏休みに入っているが、敦も誠もなかなか帰省出来なかった。
「静、どこにいるんだろうな」
「元気かな? 寂しくて泣いてないかな」
「寂しくて泣いてんのは誠だろ?」
敦は誠をギュッと抱き締める。
「だって……ひっ…く……ふぇっ………」
誠は敦のTシャツの裾を握り締める。
「頼むよ、泣くなって。オレまでつられるっ……っ……」
寮の部屋は静がいなくなった時のままで、ひょっこりと帰ってきそうだと思ってしまう。
勉強で分からないことがあると、教室でも静を探してしまう。
2人は静がいない事に全く慣れなかった。
泣き止んでもしばらく2人で抱き合っていた。
「オレ、明日には家に帰るよ。静のことで何かあれば拓海さんから連絡があるだろうし」
「そうだね。僕も明日帰ろうかな」
インターホンが鳴る。
「はい」
『地迫だけど、いいかな?』
誠はすぐにドアを開けて鈴成を部屋に入れる。
「ごめんな。何度も部屋に入れてもらって」
「大丈夫。鈴先生、静は帰ってくるよね?」
「ああ、待つことしか出来ないのが辛いけどな。……部屋の荷物はこのままでいいのか?」
「え?」
「辛ければ明さんの家に持って行ってもいいんだよ」
誠も敦もそんな事は考えたこともなかった。
「無くなった方が辛いよ。僕も敦も静が帰ってくる場所を確保しておきたいんだ」
「鈴先生、本当に静のこと探さないんですか?」
敦の言葉に鈴成は胸が痛くなる。
探したいけど、探さないと決めたのは自分だ。でも、色々と何処にいるかは考えている。
その答えはいつも同じだった。
自分には太刀打ち出来ない相手。人1人消すことなんて造作も無いことだろう。
「探さないよ。静が絶対に探さないで欲しいってメッセージを残したって事は、探すと自分にも俺にも何か起こるって思ったからだと思う」
静のことを想い、自分の不甲斐なさを嘆き、鈴成は静かに涙を流す。
「鈴先生……ごめんなさい。静がいなくなってみんな辛いのに」
「いなくなるなんて全く思ってなかったからな。謝らなくていいよ。……そういえば、ベッドの上のうさぎのグッズは何なんだ? 増えてるし」
「静はうさぎ、敦はネコ、僕はクマ。元々静にもらった防犯ブザーがそれで、なんとなくイメージもそんなでしょ?」
鈴成は静にうさ耳を生やし、自分を見上げる構図を想像する。
あまりに可愛くて鼻血が出そうになる。
「なるほどね」
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