183 / 489

第180話.◆目覚め

「シンさん?」 「シン?」 シンの熱が下がり近付く許可が下りたのは、静が自分を傷つけた次の日だった。 左腕も右足も包帯で巻かれていて、痛々しい見た目とは裏腹に、静はシンが目を開けるのをワクワクして待っていた。 「……ん…ん? え? 何で?」 「シンさん?」 「その声、シズカか?」 「え? うん。そうだけど、どうして?」 コテンと首を傾げる静が想像よりも可愛くて、どうして良いか分からなくなる。 「新一郎、見えるのか?」 「ハルさん? あ、見えますね。中心部分はカラーですけど、周りは白黒です」 見える事が不思議だった。 女性陣を見る事はできないが、静のことも直視出来ない。かと言って他の男性陣を見ても、全裸だからどこを見ればいいのか分からなくなる。 「サク、俺はどこを見ればいいのか分からない」 「バカだな。何も言わずに舐め回すように見りゃいいだろ?」 「ちょっと、サク、あんた最低なんだけど」 「うるせえな。俺は女には興味ねえから安心しろよ」 男性陣は笑ってから、ん? と黙り込む。 「それって俺らには興味あるってことか?!」 ヒサギがサクの声がした方に引きつらせた顔を向ける。 「はっ、どんだけ自分に自信があんだよ。俺には婚約者がいるからおめーらなんて目に入らねぇよ」 「え? ちょっと、あのお相手と婚約してたの?」 マナが1番に食いついた。というか、マナしか食いつかない話題だった。 「えー。そっかぁ。結婚するんだ。あ、どっちが子供産むんだろ? いやん」 「マナ、お前うるさい」 「じゃあ、黙るからどっちが子供産むことになるのか教えてよ」 「ああ? ふざけんな。お前には関係ないことだ」 サクはそう言いながら恋人の姿を頭に思い描く。 急に会いたくなった。会って抱き締めて欲しくなる。 「ふふっ、本当にあの2人仲良いですよね」 静が楽しそうに笑う姿にシンはドキッとする。 「シンさんは大切な人のこと思い出したんですか?」 「なんかまだアイドルを想うみたいな感じだけどな」 「どんな人ですか?」 「可愛い女の子だよ」 「そっか、早くここから出て会いたいですね」 それは静を残してここを出て行くということで、話し相手も晴臣と吾妻だけになってしまう。 他愛も無い話をして笑うことも無くなるのだろうか。 「シンさん?」 「なあシン、目が見えるようになったんだろ? ここにいる中で誰が1番可愛い?」 「え? あー、シズカだな」 「………え?………」 「サクと同じ答えかよ。どんだけシズカ可愛いんだよ! 俺も顔が見てーよ」 静は前にもこうやって誰かに可愛いと言われた気がした。 でも、誰になのかはやっぱり分からない。 思い出したいと思うと頭が割れるように痛くなるので、いつも考えないようにしていた。

ともだちにシェアしよう!