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第184話.◇名前で呼ぶ
「有馬さん、みんなが笑顔になれる結果が出るといいですね」
「そうだね。晴臣が応援してくれたら百人力かな」
「もちろん応援しますよ」
有馬さんは嬉しそうに微笑む。
「なら、有馬じゃなくて森って呼んで」
「森さん、応援してます」
名前の呼び方ってそんなに大切なのかな?
クスッて笑って言ったらギュッと抱き締められた。
「森さん?!」
「ん、晴臣を充電してるの」
見た目は華奢なのに、抱き締められると結構がっしりしてると分かる。
「さっきはスルーされたけど、晴臣はサファイアを吸ってないって聞いて安心した。いつか俺との子供産んでね」
は? 子供を産む?
付き合ってもいないのに変な想像をしてしまう。
「何言って!」
「何想像したの? 首まで真っ赤。可愛い」
可愛いっていうのは、たぶん俺のことだよなぁ。さっきも言われたけど、本当にあり得ない。
「可愛いとかあり得ません」
「好きな相手のことは何でも可愛くなるもんなの。これからも言うから諦めて」
そう言うと森さんは首に顔を埋めて来た。
「くすぐったいです」
「ふはっ、晴臣いい匂いがする」
森さんの行動の1つ1つが恥ずかしい。
流されてしまいそうで、胸を押し返す。
「そろそろ帰るので離してください」
ギュッと力を込めて抱き締められ、解放される。
森さんが離れると急に寒く感じた。
「燃費が悪いから今の充電じゃすぐに無くなっちゃうな。また会ってくれる?」
首を横に振る。
「どうして?」
「待ってくれるんですよね? 全てが片付くまで」
「うん」
「その日までは2人で会うのはやめましょう。定例会議では顔を合わせるでしょうが」
自分が森さんに惹かれ始めていることは、おそらく間違い無いだろう。
そうならば尚更、静さんのことがちゃんとするまではこのままがいい。
それにゆっくりと考える時間も欲しい。
「晴臣がそうしたいって言うなら、仕方ないね。分かった。その間に他の人について行っちゃダメだからな」
「森さんは他に良い人が出来たらそっちに行って良いですよ」
「俺の本気をナメないで欲しいな。晴臣以上の人なんて現れないよ」
今までのニヤニヤした顔から一変、真剣な顔で見つめられる。
「これでも、理性が崩壊しないように頑張ってるんだよ? そういう悲しい事は言わないで」
「ごめんなさい」
考えなしの自分の言葉が森さんを傷つけてしまった。
でも、俺のことは勘違いだったと思う日が来そうで、そうならそれは早い方がいい。
そう思っている時点で森さんにグズグズにのめり込んでいると、その時の俺は気付きもしなかった。
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