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第188話.◆手話
今日は秀明が来ない日。
それだけで建物内の雰囲気は明るいものになる。
シンもまだ周りも自分もみんなが全裸の状況に慣れないが、極力顔を見て話そうと努力していた。
そんな和やかな中、建物のドアが開く音がする。
もう夕飯も終わった後だった為、静はその音にビクッと体を震わせる。
「静、入ってきたのはハルさんだから大丈夫だ」
「あ、うん。ありがと」
ホッと息つく静をシンは複雑な顔で見る。
「シンさん? どうかしましたか?」
「いや、何でもないよ」
「そうですか……?」
静は不思議そうな顔をして首を傾げる。
「静さん、ちょっといいですか?」
「晴臣さん、何ですか?」
「手話出来ますか?」
「手話? んーある程度は」
そう言いながら静は手を動かす。
「どうして、そんな事を、聞くの?」
それを見て通訳したのはサクだった。
「サクさん分かるんですか?」
「あぁ、ここにくる前は喫茶店を経営しててな、そこに耳の聞こえない客がよく来ていたから。俺も会話したくて覚えた」
それを聞いて静はまた手を動かす。
「意外ですねって、悪かったな意外で……あ? 嘘です。やっぱり優しいって何言ってんだよ」
「あ、照れたサクってちょっと可愛いのな」
「ああ?!」
シンの思わずポロッと出た言葉に怒気を隠さないサク。
いや、だからその反応すら可愛いって。
今度は胸の中に納めておくシンだった。
「え? サクが可愛いって聞こえたんだけど! シン、どう言う事かちゃんと説明して」
マナがこの話題に飛びつかない訳がなかった。
「え? いや、いつも難しい顔してる奴が笑顔見せたりするとギャップが、な? そういうのだよ」
シンとマナのやりとりを見てサクがため息をつく。
「頼むからこっちに来るなよ。……シズカ。何笑ってるんだよ」
静は他の人に分からないように手話を使った。
『だって。サクさんは受け身の人でしょ? まだ来たばかりの時真っ赤だったサクさんは僕から見ても可愛かったですよ』
サクは静のメッセージに恥ずかしくて仕方なくなり顔を真っ赤にする。
それを遠目に見ていたシンはまたもサクを可愛いと思っていた。
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