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第189話.◆ギャップ萌え
「晴臣さん、急に手話なんてどうしたんです?」
「うん、これからの事を考えるとちゃんと覚えていた方がいいかと思いまして」
晴臣の言葉に静は少し考え込む。
「声も耳も失う事を想定してって事だね。サクさん、指文字は50音全部分かりますか? それだけは覚え直さないといけないから」
「分かった。これからの空き時間は指文字の練習に使おう」
「はい」
辛いはずなのに静は全てを受け入れようとする。
サクはそんな静が強いと思う。
ようやくマナから解放されたシンが戻ってきた。
「何なんだよあれ。生気吸い取られた感じがする」
「お前が変なこと言うのがいけないんだろ」
「これからは思うだけにして言うのはやめるよ」
シンの言葉にサクの眉間の皺が深くなる。
「だって、可愛いって思ったのは本当だし?」
サクにしか聞こえないように耳元で囁くとニヤリと笑う。
「てめえは……何考えてんだよ」
サクは小声でキッと睨むが、頰がほんのり赤くなっていて全く怖くない。
「ちょっと、来い」
サクはシンの腕を掴むとシャワー室に続くドアを開けて2人が入ると鍵を閉める。
「サク、俺と2人きりになっていいの?」
「お前なぁ、マナに感化されておかしくなったんじゃないか? ハッキリ言って俺に興味とかないだろ?」
「興味はなかった。さっきまでは。今は興味がある。一々可愛い反応するサクが悪い」
訳の分からないことを言い始めた目の前の男に頭を抱える。
「大切な人のこと、思い出したんだろう? 可愛い彼女はどうしたんだよ」
「陽菜ね。なんかまだ恋人って感じがしないんだよ」
「俺は大切な奴がいる。そいつ以外は考えられない。てめえが入り込む隙間は1ミリたりともない」
大体、女と付き合ってるこいつが男の俺に興味持つとか、本当に何なんだよ!
「そうだよな。別にサクをどうにかしたいとかはないよ。俺さギャップに弱いんだよ。図体デカイのに照れた顔が可愛いとか萌えるだろ」
「お前、気持ち悪いよ」
「これが俺だから仕方ないんだよ。だからシズカもあんなに可愛いのに芯が通っててさ、俺達を助けるとか格好いいよなぁって。これもギャップ萌え」
サクはシンが変態だってことが分かっただけでもいいとしようと自分に言い聞かせる。
「シズカに手を出したら秀明様に殺されるぞ」
「だから、サクにもシズカにも手は出さないって。見て楽しむくらいいいだろ?」
「あぁ、もう! 勝手にしろ」
シンが恋人の陽菜のことを完璧に思い出すまで、シンはサクと静が指文字の練習を一緒にしている姿を、ニヤニヤと締まりのない顔で見つめるのだった。
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