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第191話.◆笑顔、そして涙
秀明が建物から出て行くと、建物内はざわつく。
「時間がかかってごめんなさい! でも、良かった」
静の言葉にみんな複雑な顔をする。
「みんなにも大切な人にも、素敵なクリスマスプレゼントになりますね」
久々にニコニコと笑う静の姿に、サクは先程よりも胸が痛くなる。
もちろんサクだって外に出られることは嬉しい。
でも、それが静の犠牲の上に成り立つものだと思うとやるせない。
静は嬉しくてベッドから降りるが、中からドロリと秀明が放ったものが出てくる。
気分は急降下だ。
でもみんなが外に出て普通の生活に戻れると思うとやっぱり嬉しい。
「シャワー浴びてきます」
静がシャワー室に続くドアを閉めると、9人はふーっと息をはく。
「みんな何も言えないよね」
「マナ……そうだよね。手放しに喜べない」
「ヒヨリもマナもイズミも絶対に泣いちゃダメだから!」
「そう言うリオが1番泣きそうじゃない」
「だってっ!」
女性陣はひと塊りになる。
「本当に嬉しそうに笑ってた。でも、一人で残るってやっぱり辛いよな」
「シン、どうしたらあんなに他人の幸せを喜べるんだろうな。俺には分からないよ」
「見える2人に分からないことが俺らに分かるとは思えないけど、シズカの優先順位って自分が最後なんだろうな」
「ユウトの言う通りだと思う。あー、結局シズカの顔は見られず仕舞いかぁ」
「ヒサギ寂しいのに明るく振る舞っちゃって。僕は泣いちゃいそうだよ」
男性陣も女性陣も静のことを思うと、素直に喜べなかった。
その頃シャワー室では、頭からシャワーを浴びる静がいた。
「良かった、みんなが外に出て幸せになる。僕が望んでたことが、現実になるんだ!」
でも、ずっと一緒にいたみんながいなくなる、そのことが辛くて仕方がない。
「……うぅっ………ふぇっ………ひっく……いやだ…1人に、なりたく、ない……ぐすっ……」
本音はシャワーの音にかき消され、自分の耳にも届かない。
流れる涙はすぐにシャワーで洗い流された。
身体を綺麗に洗い終わっても涙はなかなか止まらない。
ずっと出て行かなかったらみんなが心配すると思っても、足に力が入らない。
嬉しいのに悲しくて自分で自分を抱き締める。
ようやく涙が止まりシャワー室を後にする。
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