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第192話.◆お別れの挨拶①

シャワー室を出る前にもう一度顔を洗ったが、あれだけ泣いたのだからきっと目は赤いままだろう。 静はみんなの所に戻ると、サクに向けて手を動かす。 『ごめんなさい。僕が泣いたことみんなには言わないで。シンさんにも言わないように言って。お願い』 「おい、サク。あれ」 シンが何か言おうとしたところで、サクは何も言うなと首を横に振る。 「え?」 サクはシンの耳元に顔を近づける。 「黙ってろ」 突然近づかれ、耳に心地よい低い声。 少し離れて見つめられて頷くと、満足げに微笑まれた。 やっぱりサクは可愛いと思う。 いや、変な意味じゃなくて。 シンは陽菜のことをちゃんと思い出してからは、恋愛感情に似たものをサクや静に感じる事はなくなった。 かといって可愛く思うことまでやめられる訳もない。 黙ってろというのは確実に静のことだとシンにも分かった。 泣き腫らしたような静の様子にシンも胸が痛くなる。 「僕の声はいつまで出るか分からないので、まだまだ先だけど、今挨拶をするね」 「え?」 まさかの静の言葉にみんなはその声のする方に顔を向けることしか出来ない。 「イズミさん」 「え? 私から?」 「他の方が気付いてるか知らないけど、僕がここに来た時から目、見えてましたよね? 事あるごとにフォローして頂いてありがとうございました」 「気付いてたんだ。上手く隠してたつもりだったんだけどな。ありがとうはこっちのセリフよ」 イズミは優しい顔で静を見つめた。 「ヒヨリさん、マナさん」 「あら、私達はセットなのね」 「お2人は仲がいいので。いつも笑顔にさせてくれてありがとうございました。お2人が話してるのを聞くだけでも胸があったかくなって、嫌なことも忘れられました」 「私達の話で忘れられるならこれからもそうするね! いる間はそうするから」 マナもヒヨリも泣かないようにするのが大変だった。 「リオさん」 「シズカ君、私やっぱり一緒に残るよ」 「ダメですよ。何度も言ったじゃないですか。秀明さんも僕以外はって言ってましたし」 「でも」 「挨拶させて下さい。……リオさんとはここに来てすぐ、あんな事して、恥ずかしくて暫く避けてしまってすみませんでした。でも、そんな僕にずっと優しく接してくれて嬉しかったです。ありがとうございます」 「それはシズカ君が良い子だから。イズミじゃないけど、本当にありがとうはこっちのセリフだよ」 声を上げないようにしながら、リオの目からは涙が溢れる。 そんなリオをイズミが抱き締める。

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