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第195話.◇事実は悲しみに溢れている
「あの、拉致されてからどんな事をしていたのですか?」
「暴力団の方で何があったかは知りませんが、こちらに来てからはある御方のお相手をすることに………」
吾妻は苦しそうな顔をするが俯かず、みんなの顔をしっかりと見つめる。
「お相手をって、まさか?!」
「ええ、抱かれています。ただし、冬さん、咲弥さん、新一郎さんは1度も抱かれていません。それと和泉さんも1度だけで、その後はありません」
「名前が上がらなかった人達は?」
「複数回相手をされています」
みんなが息を飲む。
信じ難いことを突き付けられて、顔が苦痛で歪む。
「それで、どうしたら1人だけ残して出て来るとか言えるんですか?!」
「それはその残る子が来てからは、ある御方の相手はその子しかしていないからです」
「え?」
吾妻の言葉に驚きを隠せないようだ。
「ここからは俺が」
「ん、頼む」
吾妻から晴臣に説明する人物が変更となる。
「ある御方は週に1日は仕事の関係で家を空けられるので、その週1日以外は毎日その子を抱いています」
「その子はいつ頃そこに来たんですか?」
「5月の終わりだったかと思います。来た初日に『みなさんを必ず外に出す』と宣言していました」
「どうして、そんな事を?」
晴臣は用意していたペットボトルのお茶を一口飲むと続けた。
「その子はある御方のお孫さんなんです。みなさんを外に出すということは身内の責任だと、全て自分で背負い込もうとしています」
「孫って、親は? 息子だか娘がいるってことじゃ?」
「その子の両親は交通事故で1度に亡くなっています。2年前の夏のことです」
「その子の年齢は? さっき写真をチラッと見たけど、若そうだった」
「15才、あぁ、誕生日が過ぎたので16才ですね」
年齢を聞いてその場にいた全員が言葉を失う。
「僕は、その子の心面の主治医でもあります。少しその子の話をしてもよろしいですか?」
誰からも異議は唱えられなかった為、拓海は話し始めた。
「その子の名前は静くんといいます。静くんはご両親が亡くなった時、事故に遭った車に一緒に乗っていました。1人だけが助かった事をずっと心苦しく思っていて、その事故が原因で表情はなくなり、声も上手く出せなくなりました。その事を同級生から心無い言葉でからかわれ、人間不信になって自殺未遂をしたこともあります」
どれだけの試練を与えれば神様は満足するのだろう。
「でも、高校に入って良い友達に恵まれて、好きな人も出来たんです。事故の後は幸せはすぐに壊れて無くなるものと思っていて、幸せになる事を酷く怖がっていました。ようやく幸せになっても良いと思えるようになった矢先に今回の事が起きたんです。今は好きでも無い人に抱かれる毎日で、昔よりも殻に閉じこもって………」
拓海はそれ以上言葉を続ける事は出来なかった。
自ら死を選んでしまいそうだなんて、鈴成の前では絶対に言えない。
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