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第196話.◇助けたい

拓海の話は衝撃的で、誰も言葉を挟む事ができなかった。 「静さんは里緒さんに『私も一緒に残る』と言われた事があったんです。その時には『僕は皆さんが辛い思いをしている間に幸せを知りました。だから今度は皆さんが幸せにならないといけないんです』と微笑んで返していました」 「幸せを知った」 鈴成が静が言った言葉を噛み締める。 その幸せを与えられたのが自分だったらいいと思う。 無理してでも笑おうとしている写真をもう一度見る。 あと1カ月で静がいなくなって半年になる。 その間ほとんど毎日他の人に抱かれていると聞かされ、相手の男に怒りを感じても、静に裏切られたと感じる事は無かった。 静を待つと決めたその覚悟は揺るぎない。 でも、本当は今すぐにでも助けに行きたいし、優しく抱き締めてやりたい。 会いたい 鈴成も心が悲鳴を上げる。 「その子が呼ばれなかったら外に出るって話は」 「話題にのぼることすら無かったと思います」 「なぁ、未成年者略取誘拐で訴える事は出来ないのか? そうしたら、その子も一緒に出られるんじゃないか?」 「それは無理です。孫が病気で療養している、という事になるでしょうから」 こんな所で静が秀明の孫である、という事が足枷になる。 元より、警察に被害届を出したところでもみ消されるだろうことは容易に想像がつくのだが。 「その子を助ける事は出来ないのか?」 「今の時点では無理としか言えません」 また沈黙が広がる。 「静のことを考えて頂きありがとうございます。でも、あの子はあなた方の大切な人達が解放され、あなた達と会えるという事を本当に嬉しいと思っているんだと思います。だから、あなた方にはその日を楽しみにして貰いたい。あの子の気持ちを汲んで欲しい」 「鈴」 「でも、記憶が無くて自分達の事を覚えていないって言いましたよね? それはどういうことなんですか?」 その質問をされて晴臣はサファイアのことを話していない事に気がついた。 「これは記憶が戻った人も含めて全員なのですが、サファイアを使われています」 「サファイア?」 一時的に有名にはなったが、知らない人も多い。 「危険ドラッグの1つです」 「あ! 前に話題になったあれか? かなり危険な物だった気がするが」 「目が見えないのもそれが原因ってことですか?」 「確か妊娠が出来なくなるって………」 サファイアのことで騒然とする。 「サファイアのことは俺から説明させて貰うよ」 部屋に入ってきたスラッとした美人は微笑んで、そこにいた人達を魅了する。

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