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第197話.◇サファイアについて分かったこと
「森さん、来て下さったんですね」
相変わらずの美人だと頰を薄っすら赤くして晴臣が声をかける。
「来て欲しいって晴臣に言われて来ない訳にいかないからね」
2人の世界が出来上がっていて、吾妻は信じられない思いで2人を見比べる。
「あの、あなたは?」
「有馬森、ばけがくの方の化学の研究をしてる者だよ。今はサファイアについて色々と調べてるところ」
「ん? 有馬ってあの?! ノーベル賞に最も近い日本人と言われてる? あれ? こんな美人だったか?」
頭に浮かぶのは髪の毛がボサボサで目も見えない人。
「そこは重要では無いと思うけどな」
苦笑するその様もいちいち絵になる程綺麗である。
「そうだった! サファイアって結局どういうものなんですか?」
「サファイアは鮮やかな青色をした粘土質のもので、少量をちぎって火を点ける。その煙を吸った後に命令された事に体の器官までもが従ってしまうというもの。体の中では生殖器に蓄積されて、生殖機能に支障をきたしてしまう」
そこにいた全員が苦しそうな顔をする。
「記憶や視力については、最終使用日から1年経てば何もしなくても思い出すし見えるようになる。サファイアの効力は1年と考えていいと思っているんだ。ただ、生殖機能については勝手に戻るということはなさそうで、厄介なんだよね」
「結局はそこにサファイアが溜まった状態だっていうことですか?」
「うん、そういうことになるかな。溜まったサファイアを外に出すためにはある薬品が有効だということまではわかったよ」
森の言葉にその場は少しだけ色めき立つ。
「まだ動物実験の段階だが、体に溜まったサファイアを外に出し無事に出産を終えて、子供にもなんの障害も残らなかったという例が何件かある。妊娠にすら到らない。産まれても奇形児だったり障害が残るという例の方が多いが、希望は見えて来ていると感じている。本来なら心配することは無いと胸を張って言いたかったが、申し訳ない」
この天才化学者にかかれば、近い将来サファイアを使用した人でも問題なく子供を持つことが出来るようになるだろうと、全員がそう思った。
「人でどうなのかは調べてないんですか?」
「何人か候補はいるが、何せ人数が少なくてちゃんとは調べられていない。出来ればあなた方の大切な人達も調べさせて欲しい」
「俺は咲弥がいいと言えば、だな」
「そうですね。本人がいいと言うのなら」
「うちも」
結局全員が、本人がいいと言えばいいということになった。
「あの、その有効な薬品をつかえば今、目が見えなくて記憶が無い人達の状態も変わるという事ですか?」
「恐らくは。その薬品は人に害を及ぼすものではないし、今調べている人達の残ったサファイアの濃度も確実に減ってきているからね。ただ、動物実験でもその濃度がゼロになることは無いんだ。もっと調べないとだな」
静からサファイアについて調べて欲しいと託されてから、研究をずっと続けてきた。
色々なことが分かってきて、森はこれは本当に根絶しなければならないものだと痛感していた。
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