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第198話.◇約束
「最後に、もしある御方が誰だか分かった場合についてですが」
色々な話をした後に吾妻は全員を見回して口を開いた。
「訴えるなどは考えないようにして下さい。みなさんの借金の返済は全てある御方が済ませましたし、生きて大切な方々を解放するというのは異例のことなんです」
「もし、訴えたらどうなりますか?」
「文字通り、いとも簡単に消されるでしょう」
肯定以外の答えは出せない。
それ程までに強力な地位にいる人などほんの一握りで、きっとあの人だと思い描く人は全員同じ人だった。
そしてその人に楯突くことなど出来ないと目を瞑ることを決める。
「分かった。無いとは思うが、もしもその人が捕まるようなことがあった時には証言をするが、それは構わないよな?」
「そうですね。その時は我々も証言台に立つことになると思いますから」
その言葉にある御方の元にいることは本意では無いことが分かる。
「それを聞いて安心した。あいつが戻って来るに当たって用意した方がいいものとか聞きたいんだが」
「そうね。ちゃんと準備しておきたいし」
みんなが帰り支度をして部屋から出て行く中、森は晴臣の腕を掴む。
「森さん? 俺もみなさんのお見送りに行くので離して下さい」
「んー、やだ」
「やだって子供じゃ無いんですから」
手を振り払おうとしても離してくれる気配はない。
手を離してくれたと思ったらキュッと抱き締められる。
「ちょっと、待ってくれるんじゃなかったんですか?」
「待つよ。待つけど抱き締めない、キスしないなんて言った覚えはないから」
「あの、一樹も拓海さんも鈴成さんも戻って来るので、離れて下さい」
「もう、離れろってうるさいなぁ」
「うるさいってっ……んんっ………」
結局森にされるがままになってしまうのは、自分がいけないのだろうか。
好きでも無い人にキスをされたらきっとこんなに気持ちいいとは思わないだろうとは思う。
でも、ここまで自分の気持ちが自分で分からないなんて初めてで晴臣はどうすればいいのか分からないのだ。
「あれ? 拓海さん、入らないんですか?」
「吾妻さん、まだ入らない方がいいと思いますよ」
そう言われた時にはもうドアを開けていた。
目に飛び込んできたのは有馬さんと晴臣のキスシーン。
「え?」
「ああ、やっぱり。だからまだ入らない方がいいって言ったじゃないですか」
晴臣は吾妻と拓海の声に我に返って、森を引き剥がすが、頭の中は真っ白だった。
「あ、これは、その、あれだ、うん」
混乱している晴臣は自分が何を言っているのかも分からない状態だった。
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