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第199話.◇羨ましい

「邪魔しないで下さいよ。せっかく晴臣を充電してたのに」 「はあ?」 「今度は誰の邪魔も入らない所でしましょうね」 「しない! しないからなっ!」 耳まで真っ赤に染めて言い返している晴臣は、吾妻が今まで見てきたのとは全くの別人だった。 「楽しそうで羨ましいですね」 「鈴!」 「鈴成さん……」 恋人が毎日他の人に抱かれていると言われた、その直後にこんなものを見せてしまって申し訳なくなる。 「良いんですよ、続けて。恋をするのは自由ですから」 穏やかな口調とは裏腹に目は笑っていない。 その後すぐに鈴成は溜め息をついて頭に手を置き上を仰ぎ見る。 「すみません。俺は人間が出来てないな。幸せそうな人達を見ると、少し前まで自分もそうだったのに何で? と思ってしまうんです。そんなこと思っても無意味だって分かっているのに」 「鈴………」 「待つって決めたのに、やっぱり探したいし、会いたいし。今すぐにでも抱き締めたい。あの子が居ないという事に、いつまで経っても慣れない」 鈴成は静かに涙を流す。 「あの子の寮の部屋、出て行ったまま、なんです。同室の子に頼んで、何度も入らせて、もらって………声がする、気がするんです。でも、当たり前だけど、いなくて」 涙を流しつつ、クスッと自嘲気味に笑う。 「こんなに、自分の中で、静が、大きな存在に、なるとは、思っても、無かった……っ………」 「……鈴………」 拓海もいつの間にか涙を流していた。 項垂れる鈴成をふわりと抱き締める。 「正直、あの人達が、羨ましい………再会出来ると、分かった、なんてっ」 抱き締めてくれた拓海をギュッと抱き締め返す。 それが静では無いと分かっているのに、絶望を感じてしまう。 静と本当に再会出来るのか、出来たとして傷ついたあの子を自分が救えるのか、また笑ってくれるのか。 救えなくても笑ってくれなくても、再会出来たらずっとそばにいたい。 少しずつでもまた心を開いてくれたらと思う。 たらればを考えるのは虚しくなる。でも考えずにはいられない。 「兄貴、ごめん。ありがとな。学校に帰るよ。あ、クリスマス、俺も行くから」 鈴成は涙を拭って無理矢理笑顔を作ると、荷物を持って部屋を出て行った。 「鈴……」 しばらく沈黙が続いた。 「なんか、悪かったな」 「有馬さんのせいではありませんよ。2人を焚きつけたのは僕ですし」 「いや、少し考えればよかった。まあ晴臣を前にして理性保つのとか無理なんだけどな」 「森さんっ!」 吾妻は言葉もなく、晴臣を見つめる。

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