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第201話.◆途方に暮れる
近いうちに声を奪われる、そう覚悟をして過ごしてもう1か月になる。
みんなと一緒にいられるのもあと1か月だと思うと、静は寂しくて、苦しくて、泣きたくなる。
でも泣いたらみんなが外に出るのを躊躇うかもしれないと思うとそうする訳にはいかなかった。
今日は秀明が来ない日だから、穏やかに時が過ぎる、はずだった。
「静さん」
「吾妻? ああ、今日なんだね?」
吾妻の苦しそうな声音に全てを悟る。
声が出なくなる。覚悟していても、やはり怖い。
もうみんなと言葉を交わすことは無いだろう。
「みなさん、本当にありがとね。たくさん心配してくれて。大切な人とお幸せに。……吾妻、行こうか」
「シズカ君!」
「シズカ!」
声がする方に一度振り向いて微笑むと静は何も言わずに地下へと下りて行った。
サファイアを使うのは久々だった。
鉄の部屋の真ん中にペタンと座り、訪れた甘い匂いを吸い込む。
「吾妻、聞こえる?」
「静さん?」
「声が出なくなって、サクさんがいなくなったら僕の言いたいことが分かる人もいなくなるってことだよね?」
「晴臣が話し相手になりますよ」
「あ、そうか。看護師だもんね」
話が出来る相手は晴臣と吾妻と秀明の3人だけになる。
その中でも指言葉が分かるのは晴臣だけ。とはいえ、今までのサクのようにずっと一緒にいられる訳でもない。
サファイアを吸うと抗えない眠気に襲われる。
「静………目に続いて声も必要無くなった。ただ、秀明様の前でだけ『お父様』とだけは言える。それ以外は何も発せられない」
眠りに落ちそうな微睡んだ状態で吾妻の声が突き刺さる。
「1つだけおまじないだ。記憶が戻って、鈴成さんと心の通い合ったキスをしたら、サファイアを使った命令の全てが消える」
耳には届いたかもしれないが、最後の方は意識も朦朧として殆ど理解はしていなかった。
目が覚めて、あ、と声を出そうと試みる。
「……っ………っ………」
空気が漏れるだけで声は出ない。
「……ゴホッゴホッ……ひゅっ………」
無理に声を出そうとすると喉が焼けるように痛くなる。
とうとう声も出なくなってしまった。
覚悟をしていたが、何も音を発せずどうしたらいいのかわからなくなる。
枯れたと思っていた涙が流れる。
「………スン………スンスンッ………」
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