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第204話.◇いるはずのない人

3時になったのを確認して諒平さんに電話をかける。 『拓海ちゃん? 私は仕事も終わって家に帰ってるからいつでも大丈夫よ』 「そうですか。僕も近くまで来てるので、今から行ってもいいですか?」 『どうぞ。待ってるわね』 諒平さんの家に向かって歩いていたから、すぐに着いた。 インターホンを押すと、出迎えには厚着の諒平さんが出てきた。 「拓海ちゃん、いらっしゃい。ちょっと買い忘れたものがあるから行って来るわね。中で待ってて」 「一緒に行きますよ」 「いいから。中で待っててちょうだい」 諒平さんの圧力が凄くて頷くことしか出来なかった。 玄関を入ると、可愛いもので溢れている。 自然と笑顔になる。 ふふっと笑って見回すと、少し大きめの靴に目が止まる。 「この靴」 見覚えがある。でも、本当に? 急いで靴を脱いでリビングダイニングに入る。 「本物? 幻かな?」 ソファに座っている人は僕のよく知っている人で。 「拓海」 その声は確かに鼓膜を震わせている。 ということは本物なのだろうか? そばに行きたいと思うのに足が動かない。 信じられない思いで見つめていると、そちらから近づいて来る。 ギュッと抱き締められ、愛しい人の香りでいっぱいになる。 腕を背中に回してこちらからも抱き締める。 そのまま顔だけ上に向けてその人の顔を見る。 「明さん? 消えたりしない?」 「消えないよ。会いたかった」 目を見てそんな事を言われたら、どうしたらいいのか分からなくなる。 「僕も、会いたかった」 自然と目を閉じていた。 噛み付くような勢いでキスをしてきた明さんを嬉しいという思いで迎える。 唇を薄く開けると、そこから厚みのある舌が入ってくる。 自分からも舌を絡ませると唾液が混じり合う。 ピチャピチャと音を立てて、そのキスに没頭する。 離れたくなくて、もっと近付きたくて腕を首に回す。 明さんの唇が肌を滑り、首に顔を埋められる。 「……んっ………」 首筋の性感帯に舌が這わされピクッと体が跳ねる。 「ダメだ。今すぐ抱きたい」 「何言って! ここ、諒平さんの家ですよ!」 熱のこもった声。舌の感触。この言動。 やっぱり夢じゃない。

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