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第205話.◇本物
「そんなこと言って、拓海もその気になってない?」
「バカっ、また何を言って! 怒りますよ!」
その気になってないわけ無い。
この半年ずっと想いつのらせた人が目の前にいて、自分を欲してるって分かれば、そんなの当然だ。
でも他人の家で、家主がいない間にそんなことが出来るわけがない。
「そのバカって聞くとなんか安心する」
ホッとしたような笑顔を向けられて、さっきのは本気じゃなかったと分かる。
きっとただ単に『バカっ』と言われたかっただけなんだろう。
「なんですか? それ」
さっき感じたエロいオーラが無くなって、心底良かったと思う。
あのまま迫られたら拒み切る自信は無かった。
明さんを改めて見つめる。
やっぱり格好いい。
「浮気してないですよね?」
「してないよ。拓海にしか反応しなくなったからな」
「ならいいです」
コテンと明さんの胸元に頭を預ける。
そうしてから、まだコートを着たままだと思い出した。
「コート脱ぐので離してください」
「ん。仕方ないな。玄関にラックがあるからかけてきな」
明さんから離れるとコートを着てても寒く感じる。
精神的なものなのかな。
玄関に行くと諒平さんと風間先生がいて驚いてしまう。
「え? お2人共帰ってたんですか?」
「うん、でも再会を邪魔しちゃいけないと思ってね」
「そういうことよ」
苦笑する風間先生とニヤニヤ笑う諒平さん。
恥ずかしい!
コートをラックにかけて、3人でリビングダイニングに戻る。
「風間さん、お久しぶりです」
「明くん、元気そうでなによりだね。海外での生活はどうだった?」
風間先生と明さんが話を始めたので、僕は諒平さんに話しかけた。
「諒平さん。明さんのことどうして言ってくれなかったんですか?」
「驚きもいいスパイスになるでしょう? 変なことしようとしたら、すぐに入って来ようと思ってたけど、踏みとどまってくれて良かったわ」
ということは、キスしてたのも今すぐ抱きたいって言われたのも見てたってことか?
「そんな顔赤くして。拓海ちゃんは可愛いわね」
「可愛くなんて無いですから! 相談はまた今度の方がいいですかね?」
「あっちも話してるからこっちも話しましょ」
ダイニングテーブルに向かい合って座ろうとして、やめる。
「飲み物用意しませんか?」
「そうね。コーヒーでも入れるわね。全自動だから、準備しちゃうわね」
手伝うことは無いようで、座って待つことにする。
目に届く範囲内に明さんがいる。それだけでこんなに幸せになれる。
2人きりになったら大好きだって伝えよう。
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