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第207話.◇日本に戻った理由

「森、お前の恋愛事情はどうでもいい。サファイアについての研究はどの位進んでる?」 明さんが口を挟んできた。 静くんのことが心配でならないんだろう。 「どうでもいいってことはないだろ? 睨むなよ。サファイアについては、蓄積したものを体外に出す薬は色々と掛け合わせたりしていて、まだ研究中だ。でも昨日、かなり良い値が出てたから、方向性は決まったかな。あとは人に投与できる状態にするのが問題だよ」 森さんはふーっとため息をつく。 僕は森さんの言葉に1つ疑問が浮かぶ。 「森さん、この前の顔合わせの時は人の体に影響を与えない薬があるって言ってませんでしたか?」 「よく覚えてるね。でも、それだけでは妊娠を希望することは難しい。精子の方も含めてね。だから違うアプローチでも調べてたんだ。上手くいけばサファイアをほぼ100%体外に排出出来るようになるかもしれない」 今、1番使われているであろう静くんのことを思うと、それが実現して欲しいと切実に願う。 「そうか。資金面で問題があれば、俺が援助するから言ってくれ」 「流石、明だな。でも、これは国際化学研究センター本社からも正式に依頼されてるから、問題ないよ」 「分かった。拓海、静の状態は?」 聞かれるとは思っていたが、言葉にすることが辛い。 でも言わない訳にもいかない。 「静くんは、週に1日の休みがある以外は秀明氏に抱かれてるって。目も見えなくなって、色々と限界かも」 数ヶ月前に晴臣さんに見せられた写真を思い出す。 一応自分のスマホに転送したが、誰にも見せていない。 「自傷行為か?」 明さんも昔のリストカットを思い出したのか、苦い顔をする。 「うん。腕とか足を傷つけているみたい。晴臣さんが看護師の資格を持っているから、ちゃんと手当はされてるけど、心は壊れる直前かもしれない」 静くんを思うと胸が苦しくなる。 「一緒にいた人達が解放されることが決まって、1人だけになったら、色々と耐えられなくなりそうで……」 「今回俺が日本に来たのはバカ親父から今年のクリスマスクルーズには必ず出席するように言われたからなんだ」 「クリスマスクルーズ………」 その日に解放されるはずだ。 「バカ親父は毎年クリスマスクルーズの時に来年どうするかを発表する。おそらく、来年の株主総会前に当主は俺になると思う」 「え? それって………?!」 「その想像が現実になれば、静は6月上旬には解放されるだろうな。色々とバカ親父の有利になるように誓約書を作られるだろうが、当主になればこっちのもんだ」 明さんはニヤリと笑う。 「誓約書の破棄も、新たな誓約書の作成も思いのままだから。あいつがやったことをやり返さないと気が済まない。出来れば刑務所にぶち込みたいが、どうかな」 自分の父親のことを刑務所になんてと思うが、長年の確執の積み重ねが言わせているのかな? 「明さん」 名前を呼ぶと明さんは微笑んでくれる。

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