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第208話.◇母親の存在

「壮絶な親子ゲンカになりそうですね」 「力の無くなったバカ親父は単なる人になる。いやモンスターかな。2度と静にも俺達にも近づいて欲しくないし、目にすらしたくない」 明さんは溜め息をつく。 「あんなのと親子だと思うだけで虫唾が走る。物心ついた時から反面教師にしようと決めてきたからな」 権力は人を変えるっていうのは本当かな? だとしたら、本来は良い人だったのかもしれないなんて、明さんに怒られそうな事を考える。 「拓海?」 「本当は明さんの父親だから恨みたくないって思っているんです。でも、静くんの事を考えるとやっぱり許せなくて」 「拓海ちゃんは優しすぎるわ。あの人の事はおばさまに任せるのが1番だと思うの」 「おばさま……明さんの母親?」 そういえば、今の今まで明さんの母親の話は出てきてなかった。 「母さんに静の事を伝えられたら、解放は難しくてもバカ親父の相手はしなくて良くなるかもしれないが」 「無理なの?」 「体を壊してずっと入院してるからな。この後会いに行くが拓海も一緒に来るか?」 「え? 僕も一緒に? 親子水入らずの間に入る訳にはいかないよ」 まさか一緒になんて言われると思ってなかったからドキッとしてしまった。 「母さんにだけは拓海のこと話しておきたいと思ってたから、出来れば一緒に来て欲しい」 真剣な目で見つめられて、目が離せなくなる。 気がついたらコクンと頷いていた。 くしゃりと頭を撫でられて、これがどういう意味なのかを思い、顔が熱くなる。 「2人だけの世界作られたら俺達はどうすれば良いんだ?」 森さんにそう言われて更に恥ずかしくなる。 「ごめんなさい! ぼーっとしてしまいました」 「拓海が謝ることじゃないよ。森のは単なるやっかみだから気にしなくていい」 「それより、来週静ちゃんからのメッセージカードを渡そうと思ってるけど、明きゅんはどうするの?」 そうだった。明さんがいたら、きっと全員が静くんを助けて欲しいと訴えるだろう。 「鈴成くんは静の状況は知っているんだよな?」 「うん。秀明氏に抱かれていることも、みんなの事を忘れたことも、目が見えなくなったことも知ってる。でも、まだ大野家にいる事は言ってない。気付いている気はするけど」 「そうか。母さんに会った後、鈴成くんにも会うか」 「え?」 「全てを話そうかと思ってな」 話しても話さなくてもどちらも辛い事は容易に想像できる。 「クリスマスクルーズの後の方が良くないかな? 静くんが解放されると分かってからの方が」 「いや、その前に全てを話したい。俺のエゴかもしれないが、静のことを彼に託すとあの時決めたのに、隠したままではいられない」 静くんがいなくなる前日のことを言っているのだろう。 「鈴成くんに全てを話せたら、みんなと一緒にメッセージカードを受け取るよ」 明さんもずっと苦しんでいたんだ。 全てを知っているという事は、はたで見るよりずっと苦しい。

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