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第209話.◇突然の………
諒平さんの家を出て近くの駐車場に向かう。
明さんはいつの間にか家に寄っていたのか、車で来ていたようだ。
「お母様が入院してる所って遠いの?」
「んー。車で2、3時間位かな」
車に乗り込み、シートベルトをする。
しばらく沈黙が続いていたが、高速に乗って少ししたら明さんが口を開いた。
「なあ、拓海」
「どうかした?」
「静が解放されて笑顔が戻って、鈴成くんと2人で歩むことが決まってからでいい。結婚してくれないか?」
車を運転して、こちらを見られない状態で言われたプロポーズ。
全く身構えていなかったから、信じられない思いで明さんの横顔を見つめる。
少しだけ頬が赤くなっていて、照れていることが分かる。
「目を見て言って欲しかったな」
思わずそんなことを呟く。
「え? 何?」
返事だと思ったのか、明さんが焦った様子で聞いてくる。
「僕で良いのなら、よろしくお願いします。ふふっ、嬉しくて空を飛べそう」
「良かった。断わられたらどうしようかと気が気じゃなかったよ。大切にする」
「うん。僕も明さんのこと大切にするよ」
束の間の幸せを噛みしめる。
「でも、何で今?」
「母さんに婚約者だって紹介したいから。あの人はバカ親父が何をしているか知っても、それごと全てを抱き締められる程強い人なんだ。バカ親父も母さんにだけは頭が上がらない」
「お母様がいないのも静くんを呼んだ理由1つなのかな?」
「そうかもしれない」
愛しい人がいない寂しさを埋める為に、娘にそっくりな孫を拉致監禁……。
ただ祖父として接してくれれば良かったのに、どうして抱くという方向にいってしまったのだろう。
またしばらく沈黙が続いた。
「拓海、着いたよ」
ハッと目を開ける。
緊張していたはずなのに、寝てたなんて僕はどれだけ明さんの隣だと安心してしまうんだ。
「ここは病室から海が見える作りになってるんだ」
「へえ。お母様は海が好きなの?」
「そうみたいだ」
面会表に名前を記入して、面会だと分かるようにバッチを付ける。
「トイレに寄ってもいいかな?」
「待ってるからどうぞ」
寝ていたからよだれの跡でもあったら大変だ。
トイレで洗面台の鏡に向かい合う。
特に変な所は無さそうだ。
笑顔の練習をしてみるが引きつってしまう。
なるようになれだ!
頰をパンと叩いて覚悟を決めると、明さんの元に戻る。
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