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第210話.◇親への挨拶

「じゃあ、行くか」 「はい」 ピシッと背筋を伸ばす。 「拓海、緊張し過ぎ。母さんは静とよく似た人だから大丈夫」 「自分にも他人にも厳しい人?」 「いやそこじゃなくて、他人の幸せばかり考える人」 あれは遺伝だったのかと思う。 きっと明さんの妹さんもそんな人だったんだろう。 「拓海はいつも通りで大丈夫」 ふわっと微笑まれてドキドキする。 こんな時にその笑顔は反則だ。 「まだ緊張が取れないならキスでもするか?」 「バカっ! こんな時にそんな事言わないで!」 もう大丈夫だな、と頭を撫でられた。 「ここだよ。あ、名前はヒロミだから。ユミじゃないから気をつけて」 大野裕美( おおの ひろみ)とネームプレートに書いてある。 「裕美さんって呼んだ方がいいの?」 「ああ。俺も裕美って呼ぶかママって呼ぶかどっちかにしろって言われてるからな」 ママ?! 明さんがそう呼んでたら色々な意味で破壊力満点だ。 「さ、入ろう」 「はい」 明さんが入るとベッドには髪を1つに束ねた女性が体を起こして雑誌を読んでいた。 「裕美、久しぶりだな」 「あら、明じゃない。本当に久し振りね。あら、そちらは?」 「初めまして。地迫拓海です。明さんとお付き合いさせて頂いてます」 「俺の婚約者だ。裕美にだけは会わせたくて連れて来た」 裕美さんがふわっと笑う。 静くんによく似ている。笑った顔も雰囲気も。血の繋がりってやっぱり凄い。 「男性を連れてくるとは思ってたけど、相変わらず明はメンクイね。美人なお嫁さんで嬉しいわ」 「お嫁さん?!」 「あら? 明がお嫁さんじゃないわよね?」 それはそうだが、まさか嫁扱いをされるとは思っていなかった。 「違うよ。俺が嫁とか気持ち悪いだろ」 「そうね。やっぱり明には燕尾服が似合うと思うわ。拓海さんはウェディングドレスが似合いそうね〜」 いやいやいや、男同士の場合、2人とも燕尾服だから! 突っ込みたいが、雰囲気的にそれが出来ない。 「いつか俺の子供も抱かせてやるよ」 「え?」「あらあら」 裕美さんと声が重なる。 明さんも子供を欲しいって思ってくれてたんだ! 今日は嬉しいことばかりだなぁ。 「そういえば、静は元気にしてるの?」 裕美さんの言葉に明さんの顔を見る。

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