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第212話.◇連絡

裕美さんの病室を出て、面会用のバッチを返すと車に戻った。 「明さん、鈴に連絡する?」 「俺からするよ」 明さんはずっと使っていなかったのか、スマホを取り出すと電源を入れた。 1つ息を吐いてから鈴に電話をかける。 「鈴成くん?」 『明さん?!』 鈴の驚いた声が僕にも聞こえた。 「話したい事がある。会えるかな?」 『もちろんです。兄貴は?』 「今、一緒にいるよ」 『そうですか。それは良かった。何処に何時ですか?』 「ちょっと待ってくれ」 スマホを離すと明さんが僕を見る。 「どうしたの?」 「家以外で安全に話せる場所はあるか?」 「代わりますね」 スマホを受け取る。 「鈴?」 『兄貴』 「ちょっと遅くなるけど9時頃に雨音さんの所でも大丈夫かな?」 『分かった。なぁ、兄貴?』 「ん?」 『明さんに会えて良かったな』 純粋に良かったと言われて、嬉しくなる。 我が弟ながら、本当によくできた子だ。 「ありがとう。じゃ、後で」 『おう、後でな』 電話を切って明さんにスマホを返すと、今度は自分のスマホを取り出す。 勝手に会う場所に指定してしまった雨音さんの喫茶店に電話をしなければ。 3コール目に雨音さんが電話に出てくれる。 『はい、喫茶Rainです』 あそこちゃんと名前あったんだ。 「あの、拓海ですが」 『あぁ、拓海さん。どうされました?』 「今日の夜9時にそちらに行っても大丈夫ですか?」 『もちろんお待ちしてますよ』 「あの夕飯とかは………」 雨音さんがクスッと笑った。 『これからカズくんと晴臣が来る予定で、ビーフシチュー作り過ぎてしまったんです。消費を手伝って頂けると嬉しいのですが』 雨音さんの優しい気遣いに感謝する。 「お手伝いさせて頂きます。あの、鈴も行きますが、もう1人連れて行きますので、3人でお邪魔します」 『分かりました。お待ちしてますね』 電話を切った時には、もう帰りの高速に乗っていた。 明さんは制限速度ギリギリで走る。 結局、喫茶店の近くのコインパーキングに車を停めて、喫茶店に着いたのは8時50分だった。

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