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第213話.◇喫茶Rain

「ここです」 「本当に隠れ家の様だな」 扉を開けて入ると中から賑やかな声が聞こえてくる。 「いらっしゃいませ。鈴成さんはもう来てますよ」 扉のチリンチリンという音を聞いて雨音さんが出迎えてくれる。 「初めまして。大野明です。こんな時間に申し訳ない」 「初めまして。白石雨音と申します。時間は気になさらないでください。あの2人はいつも深夜までいますから。お話もあるかとは思いますが、先にご飯食べませんか?」 テーブルについている3人はもう食べ始めている。 「明さん、お久しぶりです」 「こんな所でお会いできるとは思ってませんでした」 「晴臣も一樹も鈴成くんも久し振りだね」 明さんはみんなの方に歩きながら話しかける。 本当に明さんが目の前にいると思うと改めて嬉しくなる。 明さんの後ろ姿を見ていたくてしばらくその場に立ち尽くす。 「拓海さん? どうかしましたか?」 「愛する人がいてくれるって奇跡だと思って。またすぐに離ればなれになると分かっていても、今この時が幸せで満たされる」 指輪を触る。 静くんが指輪を嬉しそうにはめている姿を思い出す。 早く、早く助けたい。 「好きな人が出来ること自体、奇跡の様なものですからね。お2人の分のビーフシチューとパンをお持ちしますから座ってて下さい」 「手伝います」 「じゃあお願いしようかな。まずはコートを脱いで、ラックにかけて下さい」 コートを脱いでラックにかけて、荷物は明さんの隣の席に置いた。 カウンターまで行くと、温め直してくれたビーフシチューとパンをお盆に乗せて運ぶ。 美味しそうな匂いに急激にお腹が空いてきた。 喫茶店としては閉店しているため、雨音さんも一緒に食べた。 明さんの母親に会うなんて緊張が解けて、温かいビーフシチューが冷えた体を温める。 全員が食べ終わる前に雨音さんが口を開く。 「食後のデザートもお出ししますが、飲み物はどうされますか?」 「コーヒーをお願いできるかな?」 「僕もコーヒーを」 ここのコーヒーは本当に美味しいんだ。 「俺はコーヒーが少し苦手なんですが」 「苦手というとどの辺りが? 苦味? 酸味?」 「苦味ですかね」 「鈴はお子様舌だからね」 「兄貴!」 僕達のやりとりに雨音さんがクスッと笑う。 「では、バランスの良い飲みやすいコーヒーを淹れましょうか? それとも紅茶にしますか?」 「コーヒーをお願いします」 「分かりました。カズくんと晴臣は聞かなくても分かるからいいよ」 雨音さんが淹れてくれたコーヒーはやっぱり美味しくて、デザートも絶品だった。

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