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第214話.◇洗いざらい全て①
雨音さんが淹れてくれたコーヒーは俺でも美味しく飲むことが出来た。
聞けば豆のロースト具合によっても味がかなり変わるとか。
コーヒーは苦いだけという概念が良い意味で壊された瞬間だった。
「あれ? 鈴、全部飲めたの?」
「ん。美味しかった」
「では、コーヒーのおかわりはこのポットに入れておきましたので。お話が終わりましたらこちらに連絡を下さい」
雨音さんが明さんにメモを渡している。
「すいません。ありがとうございます」
頭を下げる明さんなんて初めて見たかも。
「晴臣と一樹も今の静について詳しく聞きたいから、残ってくれるか?」
「もちろんです」
話したい事って、やっぱり静のことか。
一瞬だけ明さんと兄貴のことかと思ったんだが、そんな訳ないか。
雨音さんが出て行くと、兄貴がみんなのカップにコーヒーを入れてから全員がさっきの席に戻る。
俺の目の前には明さんがいた。
「鈴成くん、今までずっと話せなくてごめん」
「どうして今になって? このまま何も聞かされないのかと思ってました」
「今も言うか少し悩んでる」
なぜ悩む? ここにきて話さないという選択肢があるのだろうか。
「何を聞いてもいいですか?」
「ああ、全て答えるよ」
少し強く言うと、明さんは覚悟を決めたのか真っ直ぐにこちらを見てきた。
「どうして悩むんですか? 俺は信用がありませんか?」
「そうじゃない」
「なら何故?」
「静にみんなにはいなくなる理由を話さないで欲しいと言われたからだ」
静の望みだった?
だから何も言わずにいなくなった……。
「何故今それを話すことに?」
「クリスマスに解放された人達よりも先に、俺から伝えるべきだからかな」
「今静がいるのは大野家、ですよね?」
ずっと思っていた事を初めて口にした。
口にするだけで災難に遭いそうな予感がする。
「そうだ」
「静を傷付けているのは、明さんの父親?」
「……そうだ」
「助けるのは無理……っ………?」
静の気持ちを思うだけで涙が出てくるが、グッと我慢する。
「今の俺にその力はない」
「それを、静は分かっていた……行かないという選択肢はなかったんですか?」
「ないというより、選べなかった」
明さんはコーヒーをひと口飲むと続けた。
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