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第215話.◇洗いざらい全て②
「御触れが出たんだ。御触れというのは大野家当主が出したもので、ターゲットに選ばれた人は当主の元に呼ばれる」
「そのターゲットが静だった?」
「ああ。行かなかった場合、大切な人がどんどん消されていく」
消されるって、殺されるってことだよな。
「静の場合、1番に鈴成くんが。拓海や友達のあの子達も。拓海を助けようとしたら俺も一緒に」
「待って。明さんは次期当主でしょう? そんな人が消されるなんてないよ」
「そんな事は関係ない。ターゲットに頼れる人がいなくなることが目的だから」
自分達が殺されるかもしれなかった。
それを阻止するには、そこに行くしかなかった。
優しい静には行かないなんてそんな選択肢は無い。それが痛いほど分かる。
「それを知っていた静は自分から行くと言ってきた。ただ、一晩だけ時間が欲しいと………」
「あの明さんと話していた長い時間は、この事を話してたんですね」
「俺にも海外に行けって言ってきたし、出発までをどう過ごしたいかをな。後は殆ど泣いてた。目の腫れがおさまるまでに時間がかかったんだよ」
食事の時も、その後も静は笑ってた。
泣きたい気持ちを押し込めていたのだろう。
「あの時、俺に焚きつけるようなことを言ったのも」
「ああ、静に“あっちに行ったらきっと秀明さんの相手をする事になるから、その前に鈴成さんとシたい”と言われた」
「鈴、静くんは指輪をはめてもらった時に抱いて欲しいと思ったって言ってた。だから、今回の事が無くてもそういう事になってたと思う。初めては鈴が良かったんだろうね」
どんな思いで抱いて欲しいと言ってきたのかと考えると、それだけで胸が痛くなる。
あの時の事で頭がいっぱいになりそうになるが、静の話はまだ続くからと、明さんを見つめる。
「静が出て行ったこと、気が付かなかっただろ?」
「そういえば、鈴は眠りが浅いのになんで起きなかったのかな?」
「睡眠薬で寝かせたと言っていた」
「オレンジジュースか」
言われてみればオレンジジュースを飲んだ後少しして眠くなって、起きた時には静はいなくなっていた。
起きた時も頭がボーッとして頭痛もあった。睡眠薬を飲まされたと聞いて納得する。
「夜中に家を出たからな。晴臣も待機してるって連絡をくれたから引き止められなかった。静は必ず戻るからさよならは言わないと言っていた。不安しか無かったはずなのに、この家を出る瞬間まで笑顔だった」
「出た後は泣いてましたよ。俺はおそばにいることしかできませんでしたが」
そこからは諒平さんの所で指輪の加工をして、大野家に行くまでのことを晴臣さんから聞いた。
建物内に入ってからのことは晴臣さんと吾妻さんの2人から話してもらい、中でのひどい扱いも静の自傷行為も全て聞いた。
それを聞いてもなお、静を待ち続けたいと思う。
「今後どうするかは自由だが」
「待ちますよ。静がどんな目に遭っていようと、俺のことを忘れたとしても、俺が静を好きな気持ちは変わらない。それだけは変わりません」
「ありがとう、鈴成くん」
明さんとの話が終わって、しばらくは何も考えられなかった。
どうやって寮の自分の部屋に戻ったのかも覚えていない。
首から下げた指輪を握り締めて名前を呼ぶと、あの日のことを鮮明に思い出した。
「………静…………」
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