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第226話.◇想う
あの日のことを詳細に思い出すと、やはり静は何かを覚悟して焦って身体を繋げたいと思っていたと分かる。
今となれば明さんの父親にされる事がどんな事なのか考えた結果、そういう事になったのだと容易に想像がつく。
あの時もっとちゃんと話しをしていれば結果は変わっていた?
本当のことを告げられたとして、俺の答えは簡単だ。
自分がどうなろうと静を行かせない。
でも、それで本当に俺が死んであの子が泣き叫んだら?
いやあの子はまだ15才だった。もっと良い人が現れる可能性の方が大きい。
静が幸せになれるのなら俺はどうなろうと構わなかった。
静に守られた命だ。
静が戻ってきたら静のためだけに生きれば良い。
俺から離れたいなら離れるし、一緒にいたいと言ってくれるなら一生そばにいればいい。
たらればばかりで嫌になる。
そんなことを考えても結果が変わる訳でもない。
「……静、会いたいよ、戻って来てくれ………」
誰にも届かない呟きは儚く消える。
来週、また静からのメッセージカードを渡されることになっている。
半年前には待っていて欲しいという内容だった。
同じ時に書いたのだから、その内容が変わるかは分からないが、何となく嫌な方向に変わりそうな気がする。
どんなに時間が経っても静への想いは変わらない。
変わらないどころか、どんどん膨らんで溢れて止まらない。
最近頭の中は静のことでいっぱいで、授業どころではなくなってきている。
教師失格だと分かっている。
生徒のことを考えれば、教師を辞めることも視野に入れなければならないだろう。
自己嫌悪に陥っていると、インターホンが鳴らされた。
時計を見ると12時を過ぎている。
訪ねてくるのは生徒しかいないので、誰かも確認せずにドアを開ける。
「鈴先生」
「佐々木くん? どうかしたか? とりあえず、談話室に行こうか」
「はい」
今にも泣きそうな顔をしている。
同室の長谷と何かあったか? たしか付き合ってるんだよな。
談話室で温かい紅茶を入れると、佐々木くんの前に置く。
「とりあえず飲んで落ち着いて」
「はい」
ズズッと音を立てて一口飲むとふーっと息を吐き出す。
「どうした?」
「来週、またメッセージカードを受け取るんですよね?」
「そうだな」
「拓海さんから、そこに明さんも来るって聞きました。ようやく、静を助けられる人が戻って来たって思ったのに! 明さんにも無理ってどういうことなんですか?! 無理って、どこにいるか分かってるってことですよね?」
未だ何処にいるのか、何をされてるのか知らされていない佐々木くんは理不尽だと涙を流す。
事実はあまりにも残酷で、純粋に心配している佐々木くんに伝えることは出来ない。
「明さんと兄貴は知っているのかもな。俺は佐々木くんと同じで何も知らないんだ。役に立てずごめんな。集まる時に聞けそうなら聞いてみよう」
「鈴先生、オレなんだか嫌な事しか考えられなくて。静はこのまま帰ってこないんじゃないかって心配になるんです」
帰ってきて欲しいと願う人がここにいるってこと、静に伝えたくなる。
「俺も同じように心配してる。それでも、帰って来ると信じて待つことにした。本島くんのこと心配してくれてありがとな」
ポンと頭に手を置いて微笑む。
佐々木くんが泣き止むまで一緒にいて、部屋まで送ってから自室に戻った。
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