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第227話.◇SDカード
諒平が指定した時間は日曜日の午後3時だったが、早めの時間に明と拓海は呼ばれていた。
「2人に早めに来てもらったのは、これを預かるのが私で良いのかって思ったからなの」
諒平がテーブルに置いたのは1枚のSDカードだった。
それを見て明はハッとする。
「静から預かったのか?」
「そうだけど、どうして?」
「動画の撮り方を教えて欲しいって言われたんだ」
何の為にそれを聞かれたのかその時はよく分からなかった。
「いなくなってから1年後にみんなで見て欲しいって言ってたの。もし明きゅんが当主になる事が決まったら、その時点で見てもいいかもしれないと思って」
「申し訳ないが、諒平が持っててくれないか? 当主になるまでの間に奪い取られる可能性がある。当主になる事が決まったら、本格的にバカ親父の悪業を全て調べ上げることにしてる。静を解放すると共にただの人になり下がったあいつを逮捕させたいんだ」
ひと呼吸置いてから続ける。
「2度と静に近づけたくない。明美と実さんの分もあの子は幸せにならなくちゃいけないんだよ」
明の決心は目を見れば分かる。実の父親を逮捕させたいなんて普通のことではないが、これも仕方ないことなのだ。
「調べ上げるって大変じゃないですか?」
「どうせ全てをそのまま引き継がせるつもりだろうから、何もしなくてもあっちから全部教えられるだろうな。調べるのはサファイアの入手ルートだけだ」
サファイアの件だけで世界中何処にも行く場所が無くなる。
持っているだけでも罪になり、それを複数の人間相手に強制的に使用していたとなれば刑務所送りも間違いない。おそらく終身刑になり、二度と出て来ることもないだろう。
「おばさまは?」
「好きにしていいって。堂々と浮気し放題のあいつにはそろそろ嫌気がさしてるんだろ」
「そういえば、戻って来るんでしょ?」
諒平は情報通である。
「ああ、相当悪い状態なんだけどな。俺達には気丈に振る舞ってたよ。あの人も静を助けたいって思ってくれてる」
「でも僕は何か嫌な予感がするんです。静くんがもっと大変な目に遭いそうで」
一緒にいた人達が一度にいなくなって誰の目にも触れずに静を好きに出来る、と思ったところに妻の登場。
裕美の愛に正気に戻るか、束縛と認識して静を捌け口として利用するか………。
拓海には後者だろうとしか思えなかった。
「ごめんな、俺に力が無いばっかりに。みんなに辛い思いをさせて……」
明の目から涙が零れる。
静は明にとっては甥であり、息子も同然な存在だ。
傷付けられることは耐えがたいことで、今まで静を襲おうとした人は全て制裁を与えてきた。
全て未遂で終わってきたこと自体が奇跡のようなものだった。
秀明に性的暴力を受け視覚を奪われ今度は声を失うことになるなんて、明にとっても絶望と苦痛でしかない。
大切な人のことを覚えていないということは、助けを求める相手が誰もいないということだ。
待つ人がいないと思い込んでいる静が耐えられなくなって自傷行為にとどまらなくなることが怖い。
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