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第230話.◇静からの手紙2②
次に動いたのは明だった。
「俺も読もうかな………随分と小さい字で書いてあるな」
『海外に行くことを勧めたこと、少し後悔してる。拓海さんと離れ離れになることが、明さんにとって物凄く苦しいことだったって気がつくのに時間がかかっちゃった。もしこの場に明さんがいたら、みんなから色々と言われてるよね?もう全部話していいよ。わがままだけど、明さんと拓海さんと鈴成さんの3人には待ってて欲しい。 静』
明は拓海と離れ離れになったからこそ、もう一度その大切さに気づくことが出来た。
だからこそプロポーズも出来たのだ。
待ってて欲しいと言われなくても待つのが当たり前だ。
明の中に待つ以外の選択肢は元々無かった。
静がどんな状態になっても、戻って来てから一緒に乗り越えていきたいと思っている。
もちろん拓海と鈴成と協力して。
「じゃあ、僕も………細かいね」
拓海がメッセージカードをかざすと、先程の明よりも小さい字で書かれてあった。
『明さんが離れるきっかけを作ってしまってごめんなさい。2人にとって苦しいことだったよね。初めから何もかも知っていながら言えないという状況も苦しかったと思う。今日はみんなに本当の事を言って下さい。少しでも拓海さんの肩から荷が下ろせたらって思うから。僕はもう帰れないかもしれない。それでも拓海さんと明さんと鈴成さんの3人には待っていて欲しい。わがままでごめんなさい。 静』
行く前から帰れなくなることも考えていたのかと思うとあの子の覚悟は相当なものだと分かる。
行く前日の夜、鈴成に抱いて欲しいと言うために『行ってきます』と言ったのだと思っていたが、今回のことも含めてだったのだと、ようやく分かった。
こんな時にでも他人のことを思いやる優しい子なのだ。
待っていて欲しいなんてわがままでも何でもない。
早く無事な姿を見せて欲しい。
来月のクリスマスクルーズで正式に明が当主になることが決まれば、希望は増すのだが………
帰れないかもしれないの文字を読んだところで拓海は涙を溢れさせた。
全てを読み終えると傍らにいた明にすがりつく。
2人にとってはかけがえのない息子のような存在だ。
静に何が起こっているのか、ほぼ分かっている状態なのに助けられない。
それは想像を絶する悲しみだ。
敦も誠も動こうとはしないので、潤一が間接照明に向かう。
「えっと、こうして、本当だ、文字が出て来た」
『長谷くん、なんかこうして手紙を書くのは照れくさいね。敦はどう?強がってるんじゃないかって心配なんだ。結構何でも自分の中に溜め込む癖があるから気をつけて見てあげて。僕のことは待たないで。敦にもそう伝えたから。 静』
潤一は読んですぐに振り返って敦を見る。
何か考えているのかメッセージカードを手に握り俯いていてこちらを見てはいなかった。
メッセージの中身は殆ど敦の事だった。
想像していた通りだが、待たないでとはどういうことなんだろう。
潤一は後で拓海か明に聞こうと思い、さっきの場所に戻った。
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