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第231話.◇静からの手紙2③
潤一に続き浩孝が動いた。
まともに話したのも数えるくらいしか無かったのに、自分にまでメッセージを残すとか、それだけ誠が心配だったのかなと思う。
「うん、やっぱりだ」
『芹沼くん、殆ど話したことも無いのに驚かせたかな? 誠はいつも笑ってるよね?それって苦しいことも悲しいことも隠してるんだ。誰もいない部屋でたくさん泣いてると思う。あの子のこと支えてあげて下さい。僕のことは待たないで。誠にもそう伝えたから。 静』
誠の笑顔が無理してるものだと分かっていても、それを問いただすことも出来ず、寄り添うことしか出来なかった。
自分が支えになれるのかは、よく分からない。
でも、今からメッセージカードを読んで、誠が悲しむことは間違いないだろう。
さっき潤一が敦を振り返って見たことを考えると、きっと潤一のメッセージカードの中にも同じようなことが書いてあったのだろう。
浩孝は誠と敦の2人が泣き叫ぶのを覚悟して潤一の隣に戻った。
「次は私ね」
諒平が動く。
自分にもカードが用意されていると分かったのはカードを仕分けした時だったので半年前のことだ。
ずっと何と書いてあるのか気になっていた。
『諒平さん、色々と託してしまってごめんなさい。きっとみんなを集めたり大変だったよね?指輪の加工のこと、アヤメさんに口添えありがとう。あのデザインをプレゼントされて運命的なものを感じたよ。諒平さんも驚いたよね?僕はもう帰れないかもしれない。でも、あの指輪が僕の心の支えになると思う。 静』
CLASSYのジュエリー部門は指輪のデザインを決めるところから始まった。
なかなか決まらないなか、まだ5歳だった静と一緒に作り上げたのがあの指輪のデザインだった。
いつか誰かにプレゼントされたら運命だなぁなんて思っていたが、それが現実のものとなるとは、巡り合わせは本当にあると思わざるを得ない。
鈴成にプレゼントされて本当に嬉しかったのだとメッセージカードからも読み取れる。
それだけに諒平は静の悲しみも手に取るように分かり、自分まで悲しくなってしまった。
伸晃の隣に戻るとギュッと抱き締められた。
「諒、俺も行ってくる」
「ん」
伸晃はメッセージカードをかざすと文字を目で追った。
『風間先生、改めて手紙を書くのは照れくさいな。きっと諒平さんから全てを聞いていると思います。心配かけてごめんなさい。僕はもう帰れないかもしれないから、2人とも待たなくていいです。諒平さんと仲良くね。 静』
読み終わって伸晃は溜め息をつく。
待たなくていいなんて、嘘でも言って欲しくなかった。
事故の後、酷い状態で運ばれてきた静を手術したのは自分だ。
未だに運動面では不安要素も多いが、高校に入ってから笑顔も見せてくれるようになって、声もちゃんと出るようになった。
いつか思いっきり走れるようにと、少しずつ運動を始めた矢先の出来事だった。
諒平が静を自分の子供のように思っているのと同じように伸晃もそう思っていた。
待つよ。だから帰ってきなさい。
伸晃は諒平の隣に戻り、もう一度ギュッと抱き締めた。
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