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第234話.◇生きている

鈴成がメッセージカードを読み終え間接照明から離れると、集まった面々はリビングのローテーブルの周りに座ることにした。 「あの、オレのメッセージカードに静は大野家にいるって書いてあったんですが、本当ですか? 詳しくは拓海さんと明さんに聞いてって。どんな小さなことでもいい。聞かせて下さい」 さっき我慢したから敦は1番に声を上げた。 「本当に聞く? 辛いよ?」 「聞きたいです」 「僕も聞きたいよ。静は生きてるんだよね?」 誠の言葉に、静は生きていると分かっている面々は息を飲む。 そうだった。行方不明になったということだけしか情報が無いのだから生死も分からない状況なのだ。 「うん、静くんは生きてるよ。精神的にも肉体的にもギリギリの状態だけどね」 生きている、それが分かっただけでも敦、誠、潤一、浩孝、ハルはホッとする。 「大野家にいるなら明さんは助けられないの? 次期当主なんだよね?」 「次期当主には何の権限も無いんだ。屋敷の何処にいるのかさえ分からないし、会うことも出来ない」 大野家の人間でさえ会うことが叶わないなんて、途方に暮れるしかない。 「そう、なんだ」 「静くんはある薬の影響で、記憶喪失になって目も見えなくなってしまったらしい」 「え?! それって………」 「僕達のことを忘れてしまったの?」 誠はまた涙を浮かべる。 敦は信じられない様子で目を見開いた。 「そうだね。僕のことも明さんのことも鈴のこともみんなのことも全部覚えていないって」 あんなに近くにいたのに、何も覚えていないなんて。しかも鈴成の事まで忘れてしまうなんて………。 「鈴先生、大丈夫?」 「ん? 完璧に大丈夫だとは言えないが、1週間前に全てを聞いているから、なんとかな。佐々木くん、ごめんな。あの時何も言えなくて」 「いえ、あの時聞いていたらここまで冷静ではいられなかったと思うので」 今は冷静な敦だが、この後静が大野家でどんな目に遭っているのかを聞いてもそのまま冷静でいられるのか、鈴成は心配になる。 「静くんが大野家に行った理由はね………」 拓海と明の話は耳を覆いたくなるような事ばかりだったが、誰一人として話を聞かないという選択をした者はいなかった。 みんながその言葉1つ1つに耳を傾け、どんどんと暗い表情になっていく。 どんな話だかわかっている鈴成達でさえ、表情は曇っていった。 「………これが僕達の知る全てだよ」 「今、静と一緒にいる人たちは解放されるんですよね?」 「そうだね」 「その人達と話をすることは出来ますか?」 敦の少しでも静の情報が欲しいという思いには心が揺さぶられるようだ。 「その機会を設けるようにしようね」 「はい。……あの、静にはもう待たないで欲しいって書かれてしまったんですが、そんなの無理です。オレは今回の話を聞いても待っていたいと思いました。勝手に待つのはいいですよね?」 「僕も待つよ。寮の荷物もそのままにする」 敦と誠に続いてハルも潤一も浩孝も伸晃も、結局全員が“待つ”と決めた。 静はここにいる全員にとってなくてはならない存在なのだ。 家族だったり友人だったり恋人だったりと………。 まさか自分がこんなにも愛されていると、静は思ってもいなかった。

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