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第235話.◆別れ

『とうとうみんなは外に出られるんだね。本当に良かった。僕は大丈夫だから、気にしないで』 声が出なくなって約1カ月。 もう声を出そうとする事も少なくなってきている。 外に出られることは、もちろん全員が喜んでいる。でもやはり静を1人残すことは心残りであるし、嫌だった。 「無理はするな。寂しくない訳ないだろ?」 静はゆっくりと首を横に振ると同時に2回手を叩く。いいえの合図だ。 『みんなが大切な人の元に帰れるのに寂しいなんてないよ。自分のことのように嬉しいから』 サクは穏やかに微笑む静の頭を撫でる。 「ありがとう」 お礼を言うと静はキョトンと不思議そうな顔をする。 『何でありがとう? それはこっちのセリフだよ? 秀明さんの孫なのに仲良くしてくれてありがとう。僕も外に出られたら絶対にみんなで会おうね』 静の手話はその場でサクが同時通訳をする。 静の言葉に全員がもちろんだと答える。 1人1人とキュッと抱きしめ合って、静以外の全員の首輪が外される。 本当に解放されるのだという高揚感と、静1人を残す罪悪感が入り混じる。 『バイバイ、またね』 「シズカ!」 「シズカ君!」 みんなの気配がなくなり、重い扉が閉まる音がした。 誰もいなくなった広い空間に、静が力なくその場に座り込み、鎖の音がカチャンと響く。 目からは止めどなく涙が溢れる。 「………っ……っ、っ……スン………」 声は出ない。鼻をすする音が暫く続いた。 不意に閉まったはずの扉が開く音がした。 涙を流しつつ音がした方に顔を向ける。 「静、立ちなさい」 「おと、さま?」 裸のままで何かを肩から掛けられる。 腕を通すとぬくぬくと暖かい。 「お前はクルーザーに乗せる。久々に明にも会わせてやろう」 明? 母さんのお兄さんの? あれ? いつから会ってない? 色々と疑問が頭をよぎるが、鎖を引かれて歩くことを余儀なくされる。 体力が底をつきそうな程しかないため歩みは遅く、秀明はイライラしながら鎖を引っ張る。 「お前は荷物と一緒に乗せる。後藤の車に乗れ。他の奴らに気付かれるなよ」 久々に外の空気を吸い込む。 少しだけ汚れたものが流される気がした。

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