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第236話.◆車の後部座席

車に乗らされるときにフードを被るように言われた。 誰かに見つかってはいけない。 後部座席に寝かされたので、そのまま動かない様にじっとする。 何か嫌な感じがあるが、それが何なのか分からない。 車が動き始めたのか体に振動が伝わる。 「静さん、気分が悪くなったら手を叩いて下さいね」 晴臣さんの言葉にコクンと頷いたまではよかった。 急に頭の中に映像が流れ始める。 目が見えなくなってからは夢も真っ暗闇だったのに、カラーで少し怖くなる。 トラックが急に現れて目の前が真っ赤に染まる。 「……ひゅっ……っっ………っ、っっ………」 息が出来なくなって『助けて!』と叫びたくても声が出ない。元々声は出ないはずなのに必死に出そうとしてしまう。 身体中に生温かい液体がかかり、背中に激痛が走る。 そこまでいってから、これは両親が死んだ時の事故のフラッシュバックだと分かる。 分かったところで何をどうすることも出来ず意識を手放した。 意識が戻ったのは何処かのベッドの上で、ベッドの脚に鎖が固定されていた。 車には乗っちゃいけないなんて自分には当たり前のことだったはずなのに全く覚えていなかった。 これもサファイアの影響なのだろうかと考える。 だとしたら他にも色々なことを忘れているのだろうか? 『シズカ君を待ってる人、いるんだよ』 リオさんに言われたことを思い出す。 どんなに考えてもそんな人はいないけど、これも忘れているからなのかな? 色々と考えを巡らせていると、眠気に襲われる。 うとうととしていたら、ドアが開く音がしてパチっと目が覚めて体を起こす。 「静さん、目を覚ましたんですね。良かった。車に乗れないことすっかり失念していました。すみません」 『大丈夫だよ。心配かけてごめんね。それよりここは?』 今いる場所が何処なのか分からない方が問題だった。 「もうクルーザーの中です。クルーザーと言うより豪華客船と言った方が良さそうな大きさですけどね」 『みんなはもう解放された?』 1番気になっていたことを聞く。 「えぇ、先程一樹から連絡をもらいました。皆さん無事に解放されて、大切な方々とお会いになられたと。暫くは全員が入院することになるかと思いますが、もう心配はいりません」 『良かった。これで秀明さんに本当の気持ちを伝えられる』 ずっと、もうこんなことはしたくない、嫌だと言いたかった。 でも秀明さんの機嫌を損ねたら、今回の解放の話も立ち消えになってしまう。 自分1人になれば全て自分が被ればいいことになる。 今までよりも酷い扱いを受けるかもしれないが、嫌なものを嫌と言うことは普通のことだ。 「静さん?」 『そんなに心配しなくていいよ。無茶なことはしないから』 嘘は言っていない。 “普通に”考えれば全く問題ないのだから………。

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