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第237話.◆暖かい記憶

静は微笑んでいるつもりなのだろうが、最近は殆ど表情は変わらない。 僅かな変化を見逃さないようにしないとと、晴臣は静の顔をジッと見つめる。 静は晴臣の視線の強さに苦笑する。 『そんなに見られたら顔に穴があくよ?』 クスッと笑う静はしっかりと表情に出ていて可愛い。 だが急にドアが開き、ビクリと体を震わせると恐る恐る顔をドアの方に向ける。そこには恐怖と戸惑いが見える。 『だれ?』 「静………」 「明さん、待って下さい!」 明は晴臣の声を無視して静をギュッと抱き締める。 静は嫌がる事もなくされるがままだった。 あれ? この人の匂い、知ってる気がする。 そう思った瞬間にまた頭の中に映像が流れ始めると同時に暖かい風がサーっと吹く。 何処かの家。笑顔の自分と、同じ様に笑う大人が2人。 そこは暖かくて安心出来る場所だと分かる。 下から光が差してそこを見るといつか誰かに渡されたと思われる鍵のついた鎖が巻かれた箱がある。 持ち上げると1本の鎖の鍵の部分が光に包まれ、粉々に散った。鎖も下に落ちる前に消えて無くなる。 残りの鎖は4本。 中には何が入っているのだろう。 「……静? 大丈夫か? 静!」 頭の中の映像が消えると、静は明の声のする方に顔を向ける。 『明さんって母さんのお兄さんですよね? お久しぶりです。でも、何だか久々な感じがしません』 頭が痛そうにする静を見て、明は晴臣を振り返る。 黙って首を横に振る晴臣に明は小さく頷いた。 「あの事故の後も何度か会ってるから、それでじゃないか?」 いつものように静の頭を撫でる。 静はこの感触を覚えている気がした。 サクに撫でられるよりも安心できて不思議な感覚に包まれる。 思わず頭の上の手に手を伸ばして触る。 「静?」 静はすぐに手を離すと『ごめんなさい』と手話で言ってから手をギュッと握り締める。 「謝ることはないよ。それに俺の手だったらどんなに触っても構わない」 強く握り締めている手を包むようにすると、明は優しく微笑む。 「もう行かないと。静、またな」 もう一度頭を撫でると明は少し急ぎ足でその部屋を出て行った。 静は助けてと縋り付くのを思い止まっていた。 数度しか会ったことのない人にそんなことは出来ないと思うのに、助けて欲しいという思いは膨らんでいく。 自分が秀明から離れることなど出来る訳がないと分かっているはずなのに、明なら助けてくれるかもしれないなどと淡い期待を持ってしまう。 さっきの映像が頭から離れない。 自分があんなに幸せそうに笑うなんて、秀明さんの所に来る前は幸せだったのかと思うと俄かには信じ難い。 でもそれには夢のあの人と明さんが関係していると何故だか確信が持てる。 静はこの時、外に出たいと心からそう願っていた。

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