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第238話.◇移動
静を1人残して建物を出た9人。
まだ服を着ていない為、建物に横付けされたマイクロバスにすぐに乗り込む。
全員が静のことを思い暗い表情になる。
「お前らなんて顔してる。静さんのみんなを助けたいっていう思いを無駄にする気か?」
マイクロバスを運転する為に乗り込んだ吾妻に声をかけられて全員がハッと顔を上げる。
「カズ君、それでも私は静君が心配で」
吾妻は全員にロングコートを肩からかけて周る。
「心配はしてもいい。でも、今から解放される喜びはちゃんと味わって欲しい」
「そうだよなぁ、俺達が幸せだと思うことをシズカは望んでたんだもんな」
夕斗の呟きに外に出られる喜びを全員が噛み締める。
でも静のことは忘れることは出来ず、ずっと頭の片隅にある状態だった。
「咲弥、これを渡しておく」
「ん? 写真か?」
「9人の大切な人と写ってるものだ。みんなを引き合わせてやってくれ。俺は遠くから見ているしかないんだ。それと、静さんの大切な人も来ることになってる」
「あと、チサコタクミって人も来るか? シズカからその人に心理面を診てもらえって言われたんだが」
まさかの人物の名前が出てきて、吾妻は驚きを隠せない。
「もちろん来る。その人も静さんの大切な人で、鈴成さんのお兄さんだよ」
咲弥は写真を1枚1枚見ていく。
最後の1枚には静が見たことも無い位幸せそうに笑って写っていた。
一緒に写っている人もかなりのイケメンだ。
「じゃあ、出発する。港に着いたら一度船に乗って、その後解放されるという流れになっている。目が見える咲弥と新一郎と和泉は見えないみんなをサポートしてくれ」
「「「分かった」」」
咲弥は少し考えてから静の写真も一緒に新一郎と和泉にもまわした。
しばらくして新一郎が写真を持って咲弥の隣りに座った。
「どうかしたか?」
「シズカはこんな風に笑えたんだな。俺の目が見えるようになってからはこんな顔見たことなかったから」
「俺だってこんな顔見たことないよ。本来なら見られるのは恋人限定だろ?」
新一郎はそこでニヤリと笑う。
「これもそうだよな?」
咲弥と婚約者の航が写っている写真をペラっと目の前に掲げられる。
「うるせぇな。そうだよ。あいつが一緒に写真に写るってこと自体が稀だからな。嬉しかったんだろ」
おそらく一緒に写っている写真を用意しろと言われて探したら、これしか見つからなかったんだろう。
航はすこし不機嫌だが、咲弥はとても嬉しそうに笑っている。
その後もみんなの恋人は格好いいだの可愛いだの小さい声で話ながら進み、いつの間にか港に到着したのだった。
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