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第239話.◇解放

港に着くと全員でマイクロバスを降りる。 少し歩くと9人が全員入ると部屋になった所がいっぱいになるような船に乗らされた。 しばらくみんなで身を寄せ合っていると、外から言い争うような声が聞こえてきた。 吾妻は一芝居打つと言っていたが、その声の勢いは芝居とは思えないものだった。 「ねぇ、これ、本当にお芝居かな?」 「乗る船間違えたんじゃないよな?」 不安が募ってきたところで、外の喧騒が嘘の様に静かになる。 扉が開くと顔に傷を作った吾妻がいた。 吾妻は目が見えている3人に向かって何も言うなとシーッとする。 「売られる前に見つけられて良かったな。全員出なさい」 誰かに聞かせる為なのか大きな声でそう言った吾妻は微笑んだ。 「みんなの大切な人が待ってる。早く行け。咲弥、新一郎、和泉みんなのサポートよろしくな。俺はこの船の後始末をしなくちゃならない。色々と辛かった分幸せになってくれ」 「カズ君、今までありがとう。ハル君にもそう伝えて。シズカ君のことよろしくね。変な事しない様に見ててあげて」 「里緒。静さんのことは俺達に任せて、お前は自分の事を考えなさい」 「は〜い。いつかみんなで集まれる事があったら、その時はカズ君もハル君も参加するんだからね!」 里緒の言葉に吾妻は苦笑すると、里緒の頭を撫でる。 「分かった。晴臣にも伝えておく。ほら、後は里緒だけだ。行きなさい」 「ほら、リオ。行くわよ」 「イズミ、ありがと」 里緒も和泉に手を引かれて船から降りた。 9人が一度に解放された。 吾妻は解放された9人が迎えに来ていた人達と再会するのを船の上から見つめていた。 静が来たことによって起きた奇跡の瞬間だった。 今までは“解放される”=“死”だったことを考えると、本当に恐ろしくなる。 もちろんその“死”に関わることは無かったが、そこに引き渡すのは自分の役目だった。 それを考えると、やはり自分は色々と汚れている様に感じる。 晴臣と雨音さんとこの事については何度も何度も話してきた。 結論から言えば、逆らえない人からの命令で動いた事だから仕方がない。そう言う事だ。 でも自分が自分を許せない部分も多くて、静が解放されたあかつきには、罰せられるべきだと考えていた。 解放されたら連絡をする様に言われていたので、晴臣に電話をする。 『もしもし?』 「俺だ」 『オレオレ詐欺かよ』 「あ? 一樹だ。全員解放された。大切な人との再会も出来たとこだ」 電話にノイズが多い。車か? 『それは良かった』 「車か?」 『そうだよ。急に静さんもクルーザーに乗せると言われてね』 「静さんは平気なのか? 車乗れなかったんじゃ?」 『あっ! ちょっと待っててくれ。……静さん? 気を失ってる。このまま連れて行くよ』 静の心の傷は大きい。 それが少しでも小さくなればと思うのに、秀明様の言うことに背くことは出来ない。 9人の再会を目の当たりにして、この場に静を連れてこられなかったことを吾妻は心苦しく思っていた。 いつの日か静が解放されて鈴成さん達の元に帰れる日を夢見る暇もなく、吾妻は船と先程戦った人達の後始末に追われることとなった。

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