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第247話.◇やっぱりいない◆
解放された人、というのはみんな同じコートを着ている人達のことだと分かる。
やっぱりその中に静がいなくて、喜ばしい事のはずなのに悲しみしか感じられない。
スマホでまた写真を見ていると、明さんからの着信が。
「もしもし」
『鈴成くん? 明だ』
「はい。どうしました?」
『船で静に会ったよ』
一瞬なにを言われたのか理解出来なかった。
「え?!」
近くに停泊している船を見上げる。
『俺がいるところが分かるか? こちらからは見えているのだが』
甲板近くを探すと、ばっちりスーツを着こなす明さんを見つけた。
「明さん、スーツめちゃくちゃ似合ってますね」
『ありがとう。それより、俺が立ってるところからそのまま下に、1番下か、下から2番目位の部屋に静はいるはずだ。無事な姿だけでも見せたくてね』
そう言われてその部屋が見えるように走り出す。
近くから見たいと思い、近づき過ぎた。
少しずつ離れると部屋の中が見えるようになった。
背中の大きな傷、離れ離れになった頃よりも伸びた髪、後ろ姿だが静に間違いない。
生きている。それだけでも嬉しくて涙が出てくる。
「静……静………静!!!」
ピクリと静が動く。ゆっくりとこちらを振り向いた。
俺の声が聞こえる訳が無いのに。
振り向いた静の首には真っ赤な首輪と鎖。
少し不思議そうな顔をして口が動くのと共に手が動く。
兄貴と一緒に勉強したことが役に立った。
『だれ?』
「待ってる。何があっても待ってるから!」
聞こえないと分かっていても、言わずにはいられなかった。
俺の声を遮ぎるように出港を知らせる汽笛が鳴る。
船がゆっくりと動き出して、すぐに静の姿は見えなくなった。
それでも暫くはその場から動けなかった。
「鈴?」
「兄貴、静は生きてたよ。ちゃんと生きてた」
どんなに色々な人から生きていると言われても、どこか信じていなかった。
自分の目で動く静を見て、ようやくホッと息をつけた気がする。
「うん」
「ごめん、用があって来たんだろ?」
「静くんと一緒にいた子達が鈴と話をしたいって言ってて」
「俺と?」
「そう。行ける?」
船はもう豆粒位の大きさになっている。
「行くよ。結構待たせたよな?」
立ち上がり兄貴と一緒に先程の場所まで戻る。
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