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第248話.◇思いやり

大切な人達とようやく会えて幸せそうなみんなを見るのは正直羨ましくて、嫉妬もしてしまう。 「鈴成さん」 「脩さん、良かったですね。冬さんと再会出来て」 「ありがとうございます。でも、あなたの気持ちも考えず喜んでしまって……」 脩は申し訳なさそうな顔をする。 「やめて下さい。大切な人に久々に会えて喜ばない方がどうかしてますよ。実は俺も一目ですが無事な姿が見られましたから」 「え?! それってシズカも外に出たってことか?」 今まで静と一緒にいた子達の中の一人か? 外に出たことを知らないということは、みんなが出て行くまでは一人残っていたのか。 静が悲しくて泣いていただろうことが容易に想像出来る。 「船に乗っていたよ」 「船に? よくいる場所が分かりましたね」 「場所を教えてくれた人がいたからね」 生きている事が分かって嬉しかった。 でも、どんなに触れたいと思ってもそれは叶わなくて。 あの時こちらを振り向いたのは俺の声が届いたのか、単なる偶然だったのか。聞きたくても聞けない。 「サク、ちゃんと伝えて」 「あ、そうだよな、ごめん」 今俺と会話をしていた子が目の前に来た。 「シズカを残して出て来てしまってごめんなさい。俺達はあの子に救われました。こんなこと言えた義理じゃないかもしれないけど、あの子のこと待っていてあげて下さい。俺達の所に来た時、あなたのことを本当に嬉しそうに話していたんです」 「静のことは何があっても待つって決めてるから。それと謝らないで欲しい。静もそれは望んでないと思うよ? 静のこと心配してくれてありがとう」 自分が悲しい顔をすると、3人の目が見える子達は自分達を責めてしまう。それが痛いほど分かるから、俺は精一杯微笑む。 「みんなには幸せになってもらって、静が出て来たときに自慢して欲しい。あの子も幸せになっていいと思って欲しいから」 きっと自分の事を責めて泣いて、幸せになることを怖がって………。 想像するだけで痛々しい。 「まだ記憶が戻ってない人もいるのに、こんなお願いをして申し訳ない。でもここにいる全員、もちろん静も含めて幸せになっていいんだ。大切な人を信じて一緒に歩んで欲しい」 「ふふっ、まるで鈴がカウンセラーみたいだね。僕の出番あるかな?」 兄貴は綺麗に笑ってる。本当は兄貴だって苦しいはずなのに。 「兄貴………」 「ん? ということは、あなたがチサコタクミさん?」 「え? どうしてフルネームを?」 みんなで集まったときに言ったんだったか? あの時は少し遅れたからよく分からない。 「シズカが外に出たらあなたを頼るようにと言ってたんです。来てすぐことです。スズナリさんのこととほぼ一緒に聞きました」 「そう、静くんが………。僕に出来ることは少ないけど、みんなの主治医になれたらいいな」 兄貴の柔らかい雰囲気はみんなを安心させたようで、やっぱり兄貴には敵わない。 「俺達からお願いする予定だったので、よろしくお願いします」 「「お願いします」」 「今は高校の養護教諭をしているので、土日か平日の夜に会う形になるけどそれでいいかな? 4月になれば前の先生が戻ってくるから、平日の昼間も大丈夫になると思うけど」 話を聞いていて兄貴が養護教諭として働くのは1年だけだったと思い出す。 新年度が始まったら兄貴が学校からいなくなる、そうなっても大丈夫な様に自分がカウンセリングを受ける必要があると自覚する。

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