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第251話.◇当主になる、ということ
ドアがノックされ、会話が途切れる。
「失礼致します。秀明様、そろそろパーティーのご挨拶の時間かと。奥様もお待ちになられております」
「もう、そんな時間か。小泉くんも明も行こうか」
「「はい」」
全ては自分が当主になった時に、大野家とバカ親父を壊す為に。今は良い息子を演じる。
バカ親父と小泉の少し後ろを歩く。
この日の為に諒平に誂えてもらったスーツは、派手ではないが上質なもので作られ、自分の体に寸分違わずフィットしている。
座ったりしても変な皺なども出来ない。
今日視線を強く感じるのは、それを着ているからということも少なからずあるようだ。
まあ恐らくバカ親父と似ている……あくまで顔だけだが……ことが最大の要因だろう。
胸くそ悪いがな。
バカ親父はすれ違う人達1人1人に声をかける。
秘書が耳打ちをしているから、どこの誰だと教えられているのだろうが、それでも凄いことだと思う。
これから約半年間は自分がそうしなくてはならないのかと思うと気が重い。
バカ親父程上手く立ち回る自信はない。
だが、当主になることを撤回されるようなことは無いだろう。
大野家を今よりも大きくする手腕もあると思っている。
バカ親父が俺を正式に当主にするまでの間だけは真剣に働くと決めている。
その間にバカ親父のようにはならないよう気をつけないといけない。
権力というのはとても甘い。
そこに飲み込まれないように気をつけなければならない。
俺には守りたい人がいる。だから大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせる。
「あなた、今年もこの船に乗れたわ」
「裕美、今年も着物姿が美しいよ」
両親が抱き合う光景は見たくないため、夕陽が美しい水平線を眺める。
どこからともなく拍手が沸き起こる。
ただ単に夫婦が抱き締め合っているだけなのに、何を拍手する必要があるのか、よく分からない。
バカ親父の挨拶が終われば、下の階に移動してディナークルーズになる。
大野家のお抱えシェフが腕を振るった料理は、どこのレストランよりも美味しいと去年誰かがネット上で呟いたらしい。
だからどこか早く終わって欲しいとソワソワしている人達もいると感じるのだろうか。
「あなた、そろそろご挨拶を」
「ん、そうだな」
バカ親父がマイクの前に立つ。
その隣に裕美が立つが、少しふらついている。
どうせ呼ばれることになるだろうから、俺は裕美の後ろに立った。
「辛ければ寄りかかって良いから」
裕美にしか聞こえない位の小さい声で話しかける。
「ありがとう」
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