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第254話.◆絆
明さんは気がつかなかったようだが、立ち去る時に静さんは手を伸ばそうとしていた。
すぐにやめて手を握り締めていたが助けて欲しいと言いたかったのではないかと思う。
ドアが閉まる音に悲しみを滲ませる静さんを見ていられなくて、視線を逸らした。
静さんだけでなく、里緒や咲弥達のことも何度も何度も助けたいと思っていた。
それが出来ない自分に憤りを感じる。
自分を犠牲にしてまで、9人を助けた静さんの行動力は尊敬に値する。
静さんに視線を戻すと窓の方に向いて手を動かしていた。
手話だろうか? 自分の位置からは何と言っているのか分からなかった。
じーっと外を見ている静さんに話しかける。
「静さん? どうかしましたか?」
集中力が途切れたように体を震わせて、まだ外が気になるようだがこちらを向いた。
『何でもないよ』
穏やかな顔をしていると思ったら、急に大粒の涙が溢れてきた。
「静さん?!」
驚いて声をかけると静さんは不思議そうに頬を伝う涙に触れる。
『声がした』
「声?」
俺には何も聞こえなかった。
もう一度外を見る静さんと一緒に外を見る。
出港して船の角度が変わり始めていたが、その視線の先には間違いなく鈴成さんがいた。
「……っ………」
思わず息を飲む。
絶対に聞こえる訳がない“声”を静さんは聞いたのだ。
『どうしたの? 何かあった?』
俺の息を飲む音に反応して静さんが聞いてきた。
あなたの大切な人がいた、なんて言える訳もない。
「誰の声がしたんですか?」
質問に質問で返す。
『知らない人、でも夢に出てくる人』
「夢ではどんな人なんですか?」
『優しい人だよ。僕の心配をしてくれる。その声を聞くと心があったかくなる』
きっと夢に鈴成さんが出てくるのだろう。
深層心理では忘れていないのだ。
『いつもは穏やかなのに、さっきは泣きそうな声だった。その声を聞いたら僕も悲しくなった』
「その人に会いたいですか?」
『実在するなら、会って誰なのか聞きたいな。でも顔も知らないし見えないし、これで耳も聞こえなくなったら……もう何も分からないね』
夢で会える鈴成さんの存在が今の静さんを支えているのだろう。
顔は知らないし見えない、ということは夢なのに真っ暗なのだろう。
「きっと会えますよ」
『そうかな……だといいな』
ふわりと笑う静さんを久々に見た。
鈴成さんと静さんが絆で結ばれていると感じた瞬間だった。
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