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第256話.◆静の願い

✳︎暴力の表現があります 見知らぬ人間に襲われかけている静さんを見て、自分を抑えることが出来なかった。 気がついた時には腕を取って、肩の関節を外していた。 耳を塞ぐように言ったが呻く声が聞こえていない訳がない。 いつも冷静でいられるように精神も鍛えていたはずなのに、静さんを怖がらせるようなことをしてしまった。 「あの、静さん?」 声をかけるだけでビクッと体を震わせて不安そうな顔をする。 「怖がらせてすみません。これ以上は近付きませんから」 『どうして? そこまでしなくても………』 確かにやり過ぎたと思う。 今まで秀明様がすることに目をつぶっていたが、本当は殺したいと思うほど憤りを感じていた。 その気持ちが爆発してしまったのだ。 元々静さんのお父様である実さんには喧嘩に明け暮れていたところを拾って頂いた。 それからは実さんに言われた言葉を胸に他人を無意味に傷つけることはしていない。 『喧嘩をするなとは言わない。でも、それは誰かを助ける時だけだ。理由もなく傷つけるのは人のする事では無いよ』 初めて静さんに会った時、どんなことがあっても守りたいと思った。 屈託無く笑う、その笑顔も守りたいと思った。 それなのに今の自分は何なのだろう。 泣いて助けを求めていることが分かっていながら、何も出来ないでいる。 「そんなに痛いか?」 外した関節を元に戻す。 外す時とは対照的にあまり音はしない。 元に戻してから後ろ手に拘束して床に捨て置く。 本当は腕を折ろうと思っていた。そうしようとした時静さんの顔が見えて出来なくなった。 「あれ? 折れてないのか?!」 「肩の関節を外して、戻しただけだ」 静さんがホッと息をつくのが分かる。 「もしもし。申し訳ありません。食事を取りに行っている間に見知らぬ方が部屋に侵入しまして………未遂ですが………かなり怖かったようで………えぇ、拘束してここにいます」 秀明様がかなり動揺なさっていた。 すぐに来るだろう。 『折ったのかと思ったよ。違かったんだね』 「静さんの顔が見えて、折ろうとしてたんですが出来ませんでした」 『僕の為でも人を傷付けないで。傷付くのは晴臣さんだよ。心が悲鳴を上げてる』 静さんがこちらに向かって手を伸ばす。 その手を包むように握る。 静さんの優しさが手から流れ込んでくるようで、しばらくそうしていたらドアが乱暴に開けられた。 「静!」 「おと、さま」 まだ恐怖が抜け切れていないのか、声が震えている。 「は? その子のご主人様って秀明様?!」 襲った輩が信じられない、と声を上げる。 「三芳さんでしたか」 怒った秀明様のオーラは人を圧倒する。 静さんが手を引き抜いて手話を使う。 『お願い。殺させないで』 静さんには秀明様の心が見えているのかもしれない。

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