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第257話.◆秀明様の制裁
三芳と言われた男は驚愕と恐怖が入り混じった顔で秀明様を見上げている。
「お前が食事の会場に来ていないことは報告を受けていたが、まさかこんなことをするとはな」
すぐに動けるような縛り方はしていないので、三芳は秀明様に足蹴にされても動けずにいる。
『晴臣さん、お願い。僕の言葉を伝えて』
秀明様のすることを見ていると分かっているのか、軽く俺を触ってから手を動かす。
「あの、秀明様?」
「何だ?」
「静さんが伝えたい事があると言っているのですが……」
秀明様は少し考えてから頷いた。
「静さん、許可がおりました」
「お父様」
はっきりとしたその声はやっぱり涼やかで穢れなんてどこにもない。
『僕は何もされてません』
「お前に馬乗りになっていたと聞いているが?」
『何かされる前に晴臣さんが助けてくれたから』
「何が言いたい?」
『殺さないで』
秀明様は静さんの顔を見つめる。
静さんは『お願い』と口パクで伝える。
手話は使わなかった。
秀明様はドカッと三芳の胸の辺りを踏みつけるとニヤリと笑った。
「くっ………はっ……はぁはぁ」
「いいだろう。殺しはしない。ただ、死んだ方がマシだったと思うような目には遭ってもらう」
「お父様?!」
「静、お願いは1つしかきけないよ。楽に死ぬか、死なずに苦痛を味わうかどちらかだ」
静さんは目を曇らせて近くにいる俺の服を握り締める。
そんなこと静さんが選べる訳はない。
『………僕には選べないから、本人に………』
「本人に選ばせるのか? それはいい。どうする?」
1番酷な質問をする。
死ぬか死んだ方がマシだと思うような目に遭うかなんて俺だったら選ばずに秀明様に委ねる。
「そ、れは………」
顔面蒼白になり、ガタガタと震えている様子を見ると可哀想になる。
「選べないか? なら私が勝手に決めるが? ……5分だけ時間をやろう。それが過ぎたら私が決める。決めたことには従ってもらう」
金魚が酸素を欲しがるように口をパクパクさせるが、そんな短時間で答えなど出るのだろうか。
「そろそろ5分経つが、決まったか?」
「……あの、死にたくありません………」
「それが答えか?」
三芳は覚悟を決めたように頷いた。
「いいだろう。船を降りたらお前はある組織に引き渡す。その後のことは私は知らん。上手くいけばいつか外に出られるかもな」
ある組織。おそらく暴力団関係だろう。
その関係者と思われる人が三芳を連れて出て行く。
「私もパーティーに戻るとする。後藤、今後は静から離れないように」
「はい」
かなり歪んではいるが、秀明様も静さんを愛しているのだろう。
今回のことがあって、俺はそんな事を思っていた。
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