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第258話.◇病院へ
「鈴?」
「ああ、ごめん。俺も病院に行くよ。あの船はここに戻ってくる訳ではないらしいからな」
鈴成はもう一度海の向こうに消えた船の方を見た。
その後なんとなしに解放されたみんなが出てきた建物を見ると、傷だらけの人を見つける。
「ん? 吾妻さん?!」
鈴成は吾妻に駆け寄る。
「え? まだいたんですか? 見つからない予定だったのに………」
吾妻は驚いて鈴成の顔を見た。
「一緒に病院に行きましょう。手当てをしてから静達のお迎えでも遅くはないでしょ?」
今まで吾妻が見てきた限りでは、鈴成は1番明るい顔をしていた。
「俺は今日はこのまま家に帰るだけなんですよ」
「なら尚更、解放された子達もあなたがいたら安心出来るでしょうから」
「理由付けが上手いですね………分かりました。一緒に行きます」
吾妻は苦笑すると口の端の傷が痛むのか苦い顔をする。
「吾妻さんて、見えないですが明さんと同い年なんですよね? 敬語、やめませんか?」
10以上も年上の人から敬語で話されると、自分がどう接すればいいのか分からなくなる。
「じゃあ、やめるかな。鈴成さん、静さんの事は申し訳ない。でも無事にあなたの元に返せるように俺達も頑張るから」
「えぇ、俺もグダグダ考えずにあの子が戻って来やすい空間を作って待つことにしました」
決意表明のようなものを交わしていたら、拓海から話しかけられた。
「鈴、もう行くよ! あれ? 吾妻さん?」
「吾妻さんも病院に行ってくれるって」
吾妻が傷だらけな事はナイショとしーっと鈴成がする。
その仕草が可愛くて、拓海は久々に弟を見て心が温かくなった。
「カズ君も一緒に行ってくれるんだ!」
「お前ら、良かったな。大切な人に会えて」
みんなが幸せそうで吾妻も嬉しくなる。
「不思議なんだけど、覚えてないはずなのに覚えてるって感じなの」
「それ、分かる!」
「俺も」
「夢に出てきた人にやっと会えたなぁって」
1人の呟きに記憶のない5人が驚いた顔をする。
「僕も夢に出てきてた」
「え、俺も出てきてたよ」
「私も」
「俺もなんだけど」
「やだぁ、私もだよ」
なんと、全員が夢で大切な人に会っていたと言う。
「咲弥も新一郎も和泉もか?」
「出てきてたよ」
「だな」
「もちろん、私も」
鈴成はさっきの静を思い出していた。
『だれ?』と不思議そうにしていたのは自分が静の夢に出てきていたから、そう考えてから自嘲気味に笑う。
もしかしたら明や拓海、敦や誠が夢に出てきているかもしれないのに、鈴成は自分が出てきていると真っ先に思っていた。
結局鈴成は、病院までの道のりはみんなの話を聞きながらずっと静のことを考え続けていた。
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