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第259話.◇カウンセリング

今後のことを考えて、自分が戻る病院にみんなを連れて来た。 解放された子達の入院手続きも終わり、吾妻の手当ても終わった。 本来なら後は帰るだけなのだが、僕はカウンセリングルームに鈴と一緒にいた。 「で? 医者としての僕に何か聞きたいことがある?」 「兄貴なら分かってるだろ? 来年の春から兄貴が学校からいなくなって、俺は教師を続けていく自信がない」 どんな事があっても夢であった教師を続けたいという思いが伝わってくる。 「医者の立場から言うと自信がないのなら一度その仕事から離れる事も1つの選択肢だよ」 「そう、だよな」 「でも兄として、静くんの親として言わせて貰えば、あの子と出会うきっかけになった仕事を辞めて欲しくないな。もう冬休みに入ってるし、ゆっくり考えたらいいよ。すぐに結論を出す必要は無いと思う」 鈴は少し笑うとまっすぐにこちらを見た。 「やっぱり兄貴には敵わないな」 「ふふっ。鈴が生まれた時から兄だからね。教師の仕事続けたいって気持ちがひしひしと伝わってきてるし」 「そりゃあやり甲斐もあるし、子供達も可愛いからな」 そう言ってから表情が曇る。 「でも、最近は頭の中が静のことでいっぱいで、生徒のことを考える時間がないんだ。みんな可愛いのは変わらないのに、特別が出来たから蔑ろにしているみたいで嫌になる」 「考え過ぎ。それって静くんじゃなくても恋人が出来たら同じ事が起こると思うよ? 特別な人が出来ることは良いことなんだから、それを力に変えて頑張れたら最高だよね」 鈴は少し不思議そうにこちらを見ている。 「今までも一度も恋人がいないとかはなかったけど?」 「本気の度合いが違うんじゃない? いなくなってここまで待とうと他の子で思ったかな?」 「思わなかったと思う」 静くんは鈴にとって特別で、それは心が支配される程の恋情。 そばにいれば思いもしなかった力になるけど、こうやってどんな目に遭っているのか分からないとなると弱味になる。 「ねぇ鈴?」 「ん?」 「静くんが帰って来るまでにあの子を驚かせるくらいステキな授業が出来る先生になったらどうかな? 今までだって鈴の授業は分かりやすいって評判だったけど。それを磨いてみたら?」 僕の提案に鈴は少し驚いた様だった。 「兄貴はもしかしたら帰ってこないかもとか思わないのか? 俺は不安で仕方ない」 驚いたのはそこね。 「僕にだって不安はあるよ? でも誰も帰ってくるって信じて無かったら静くんが可哀想だから。僕1人だけでも信じる事にしたんだ」 「兄貴は強いな。明さんのことも静のことも信じて待ってるなんて」 「だって、僕には鈴も敦くんも誠くんも、諒平さんや風間先生、晴臣さんや吾妻さんや雨音さんもたくさんの人がそばにいる。みんなから元気をもらってるから僕も強くなれる」 本当は単なる強がりもあるんだけど、鈴の前では弱いところは見せたくない。 「兄貴の提案にのることにするよ。それと、俺も生きてる静の姿が見られたから、気持ちも落ち着いたところがある。帰ってくるって信じて待つよ。帰ってきた静に恥ずかしくない自分でいられるように心を入れ替えて、教師として自分磨きしてみる」 数分前までとは違う晴れやかな表情で鈴は笑った。 「それがいいね。それに学校からいなくなったって、いつでも連絡していいんだよ?」 「ありがとう。でも、明さんと兄貴の邪魔出来ないよ。結婚式は静が帰って来てからか?」 「え?! 何で?」 まだ話してなかったはずなのに。 「明さんから聞いた。正式にプロポーズしたって。静のことは俺が全部受け止める。だから明さんと幸せになれよ」 本当にさっきまで色々と考え過ぎてた子だとは思えない。 急に頼もしくなった。 吹っ切れたのかもしれない。 「静くんの笑顔を見たら、鈴に任せて大丈夫だって思ったらね。一緒に帰りを待とう」 「ああ、そうだな」 鈴が人として一回り大きくなった気がする。 静くん、安心して戻って来てね 僕は心の中で静くんに話しかけた。

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