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第265話.◇いなくなった?!
裕美の葬式は年が明けてから行われた。
喪主はもちろんバカ親父で、俺は色々な雑用をこなした。
葬式が終わってすぐに俺を当主にすると話があり、書面でのやり取りもその場で済ませた。
あまりにも時間が無かったが、クリスマスクルーズの時の録音が決め手となり、バカ親父の逮捕状が出たのはその次の日だった。
警察と一緒に静が閉じ込められているという建物へ向かった。
サファイアを使っているかもしれない為、全員がガスマスクを着用して建物内に入った。
しかし、そこには誰もいなかった。
建物内のど真ん中にあるベッドは使われた形跡があるが、触ってみても冷え切っていて使われなくなってから時間が経っていることが分かる。
その頃他の警察官が母屋に行っていたが、やはりそこにもバカ親父と静はいなかった。
「静……どこに行った?」
「「明さん」」
晴臣と一樹が駆け寄って来る。
「親父と静はどこに?」
「それが、俺達にも分からないんです。昨日の夜まではいましたが朝にはいなくなっていて」
「どうやら、不動産をいくつか購入していたようなのですが」
目の端に親父の秘書である小宮山さんが映る。
「小宮山さん!」
「明様。秀明様は今朝早くに出て行かれましたよ。静様とご一緒に」
「どこに?」
「そこまでは私でも分かりかねますが、こちらが購入した不動産の一覧です。秀明様は奥様とご一緒に行くご予定だったようで、空気の綺麗な所を選ばれていたようです」
一覧には北は北海道から南は沖縄まで10以上の物件の情報が載っている。
1つ1つに目を通していくと、北海道のある物件が気になった。
そこは裕美が行きたいとよく言っていた場所のすぐそばだった。
よく分からないが、そこにいると確信を持った俺は北海道に行くことを決めた。
飛行機の予約をしたくても、どこもいっぱいで3日後の便が最短だった。
逮捕状が出たことで全国に指名手配されているが、逃げられては困るのでマスコミにはまだ公表されていない。
3日後に北海道の物件に行って、いなかった場合のことを考えて不動産の一覧から他に気になる物件がないか探す。
もう一件気になるところが見つかる。
だが、本命は北海道だ。
拓海からスマホに連絡が入った。
「もしもし」
『明さん、静くんは?』
「親父が何処かに連れて行ってしまったらくて、ここにはいなかった」
『そんな!』
「親父は不動産をいくつか購入していたらしい。気になるところがあって、明後日北海道に行く」
『分かった。僕は待ってるから。秀明氏に会った時には冷静にね』
拓海には殴りかかる俺の姿が見えているのかもしれない。
「ああ、肝に命ずるよ」
静が無事でいることを願って、俺は北海道に行く準備を進めた。
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