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第270話.病院
拓海からのJOINを確認し、スヤスヤと眠る静を助手席に乗せて病院へと向かった。
途中で目を覚ましたらパニックになる可能性が高いので、寝たままで着いて良かったと思っていた。
拓海から連絡が入っていたようで病院に着くとすぐに検査をするからと静は連れて行かれてしまった。
離れることに不安を感じるが、待つことしか出来ないから待合室で座っていた。
「大野さんはいらっしゃいますか?」
「はい、俺です」
看護師だろうか。呼びに来たのは可愛らしい女性だった。
「こちらに。ドクターから説明がありますので」
通されたのは会議室のような場所だった。
「大野さん、連れてこられた本島静くんの保護者ですね? お座りになって下さい」
「はい。あの静は?」
「まず、虐待の跡がありますが?」
それを付けたのはあなたでは? とジッと見つめられた。
「拉致監禁されていたんです。犯人は捕まりました」
「そうだったんですか………検査結果ですが、栄養失調と外傷はありますが、それ以外に問題は無いように見えます」
「見える?」
先生の言い回しが気になった。
「強いストレスがかかっていたのか、起きる兆候がありません。自分でもう目を覚ましたく無いと意識を閉ざした状態であると考えられます。その場合、近しい方々の声かけが1番なのですが………」
「俺以外は全員東京です。学校や仕事でこちらに来るのは難しいかと」
「では点滴をして栄養失調が解消されて、状態が安定しているようであれば、東京の病院に搬送するということにしましょう」
さっき動かなくなったのは静が意識を閉ざしたからなのか?
俺を親父と混同していた?
まさか声が聞こえていない???
「あの、声が聞こえていないという可能性は? あ、すみません。もう聞いているかもしれませんが、静はサファイアを使われて目が見えず、喋ることも出来ません。もしかしたら俺達の知らないところで聴覚を失った可能性も………」
「そうなると声かけ以外にも手を握るなどした方が良いですね。自発呼吸はしていますが、いつどうなるか分からないので酸素マスクは着用させて頂きますね」
「東京にいる間に色々と世話をしてくれた看護師がいるのですが、呼んでもよろしいでしょうか?」
晴臣なら指言葉で会話も出来るだろう。
「その方がいらして下さるのなら、こちらとしても有り難い。掛け合って頂けますか?」
「ありがとうございます」
会議室を出て、携帯電話使用可能エリアで晴臣に電話をかける。
「晴臣か? 明だ」
『静さんは?』
「無事だと言いたいところだが、目を覚まさないんだ。先生からは自分の意思で意識を閉ざしているんじゃ無いかと言われた」
『そんな……』
「なあ、静は耳が聞こえなくなったとは考えられないか?」
『それについては一樹から話しますので、代わりますね』
大野家でサファイアを触ることができたのは親父と一樹だけだった。
『明さん、静さんの耳についてですか?』
「ああ」
『実はサファイアが使われた形跡はありましたが、相当少ない量だったようで、部屋に充満していたとも考えにくいんです。その場合、命令が完結し切っていない可能性が高いので、全く聞こえなくなってはいないと思います。老人のようにかなり耳が遠くなっているとは思いますが……』
「なら、声をかけるときは大きな声で、ということか」
『はい。ただ、本当にそうとは言い切れません』
耳が全く聞こえなくなっていた場合、話しかけること自体に意味をなさなくなる。
それでも、手を握って声をかけ続けるだろうが………。
とにかく静が生きることを諦めることが無いようにそばにいよう。
「すまん、晴臣ともう一度話したい」
『分かりました』
『明さん?』
「晴臣、出来たら釧路の病院に来て欲しい。静のそばにいてくれないか? もちろん、他の拉致された子達のそばにいたいというのなら諦めるが………」
『あの子達には1番そばにいて欲しい人が付いていますから、明日にはそちらに行きます』
「すまない。ありがとう」
『いえ、そう言っていただけて俺も嬉しいです』
晴臣が来てくれることになり、俺も少しホッとした。
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